2021年09月15日
東京ニューシティ管弦楽団が「パシフィック フィルハーモニア東京」に名称変更!音楽監督に飯森範親―アカデミー設立や学生5,000円の年パスも

東京芸術劇場にて東京ニューシティ管弦楽団が、新音楽監督就任と楽団の新名称発表記者会見を行った。会見には専務理事兼楽団長の齋藤正志、理事長の日野洋一、音楽監督の飯森範親、主席コンサートマスターの執行(しぎょう)恒宏、司会にマーケティング・ディレクターの小田弦也が出席。会見の模様は報道関係者やファンに向けて、東京ニューシティ管弦楽団オフィシャルYouTubeで生配信された。
最初に日野より、新楽団名称が発表された。新楽団名称は、パシフィック フィルハーモニア東京 「Pacific Philharmonia Tokyo」。 [Pacific(太平洋・穏やか)]×[Philharmonia(音楽を愛する)]×[Tokyo(東京)]の3つのキーワードからなる造語で、太平洋ひいては世界に向けて、音楽を通じて国と国とを繋ぎ、平和と融合を音楽でもたらす(Pacifyする)使者でありたいとの願いを込めた。同楽団は、新シーズン2022年4月からこの新名称へ変更して活動する。
続いて小田より、リブランディングとロゴデザインの説明が行われた。リブランディングのブランドコンサルティングを行ったのは株式会社takibiの朝倉昇誠、ロゴデザインはグラフィックデザイナーのAndres Fehrが手掛けた。ロゴについては「新しいロゴマークには2つのラインが走っていて、中心を貫く黒いラインは弦楽器の弦であり、管楽器の管であり、打楽器のスティックを象徴している。金色のライン、これはマエストロの指揮棒(タクト)を表している。このシンボルマークは、楽団員とマエストロが一体となり、新しい音楽の航海に進む決意を表したもの。今後は新しい楽団、そして音楽監督の下、日本を、環太平洋を代表するオーケストラへと成長していきたい」と語った。
リブランディングに至った経緯について日野は「一般の方にどのように音楽を届けていくのか。一流の素晴らしいものを一人でも多くにお届けするのが、最大の使命ではないか」と考え、3つの方向性と共に新しい取り組みを行っていく。
一つ目は、新しいマエストロを迎える事でこれまで以上に楽団員の個性を発揮させ、話題性のある公演を行う事。二つ目は、パシフィック フィルハーモニア東京のアカデミーを設置する計画。茶道家の木村宗慎を理事に迎え、オーケストラのユースに向けて若い音楽家に日本の伝統文化、芸術を学ぶ機会を提供することで世界に通用する新しい切り口で音楽家を育てていきたいという。最後に、音楽を通じたコミュニティを形成し「市民の皆さんと音楽を分かち合い、クラシック音楽を通じたメンバーシップのようなものを作っていきたい」と話す。
同楽団と飯森の最初の”出会い”は、2019年の定期演奏会。齋藤は「楽団の音が変わった、音色も表現も全てのスケールがひとまわり大きくなった、楽団との相性がよかったと感じ、楽団員からの支持も高かった」と定期演奏会と音楽監督就任の経緯について振り返る。当時は創立30周年で変革を必要としており、最大の課題はリーダーとなる音楽監督を決める事だったが、楽団の将来像を示し、イメージをも一新する指揮者でないといけなかった中で、地方のオーケストラを劇的に変えた実績やオーケストラのタイトルもいくつも持っている飯森に白羽の矢が立った。「全てのことを発展させ、新たなものを作っていかないといけない時には絶好の方だった」とも。しかし、飯森は多くのスケジュールを抱えており交渉は難航。時間をかけて話し合いを重ねた結果、念願叶って2022年度より音楽監督への就任が実現した。また指揮者には、オペラやシンフォニーの両分野で活躍する園田隆一郎が就任する。飯森とタイプが異なるため「上手くバランスが取れるのでは」と話す。
今後について執行は、海外オケとの経験もある飯森と「今まで同オケが足りなかった各国の歴史、言語、景色などの”色付け”というものを飯森新監督と作り上げていけたら」と意気込みを語った。また、この機会に変える事や変えない事について質問されると「楽器で皆様に作品を届けるときに一番必要なことは、常に様々なことに興味を持ち、自分のスキルを高めようとする意識こそが一番大切。変化し続けなくてはいけない」と話し、「和気藹々(あいあい)としていて、ギスギスしていない空気がある。リハーサル中に積極的に飯森さんに質問が出るような所は今まで通り変わらずに、のびのびと音楽作りをしていきたい」とも。
報道陣や会見の視聴者、各関係者へ丁寧に感謝の言葉を伝えた後、飯森は「オーケストラには一緒に音楽を作っていく楽団の皆様の”前向きな意識”が何物にも代えがたいプライオリティだ」と語った。その上で、以前の楽団との演奏について「ブルックナーの交響曲第9番、3日間の練習でニューシティのメンバーの皆さんが自身の言葉をいかに音楽にしようかという、強い思いが感じられた。本番は、ブルックナーに聴いてもらっても恥ずかしくないような素晴らしい演奏だった」と思い返した。
当時、楽団よりアプローチされたが、4半世紀以上も関わり自身にはなくてはならない存在の東京交響楽団があったので、その時は断った。しかしコロナの自粛期間に、自分がどのように音楽家として生きていけばいいのかと考えていた最中に再度、齋藤から誘いがあり、改めて日野と対話を重ねたという。日本の文化的背景を理解した上で西洋の音楽を表現する演奏者、また海外に通用するような演奏者の教育を行うアカデミーの構想や「会場に来る方、お一人お一人が応援団でパトロンです」との考えにも、とても共感したという。「この理事長とだったら一緒にできるのではないかと確信を持ち、引き受けた。今後もパシフィックフィル東京を応援いただけたら。応援したいと思ってもらえるような内容を提供していきたい」と語った。
2022年度 定期演奏会予定表(拡大可)
続いて、2022年の公演ラインナップのコンセプトについて「東京から国内外へ、クラシック音楽の最前線の姿と、音楽芸術の真髄を伝える定期演奏会を実施する」と発表した。定期演奏会は、全9回で東京芸術劇場で7回、サントリーホールで2回開催する。地元として大切にしている練馬での演奏会も予定。「聞いてくださる方の音楽への興味関心をさらに深めていただきたいという思いから定番の交響曲・協奏曲に加えて、知ってほしい曲や作曲家、近現代や現代の作品を組み合わせた」と飯森。「国内外で活躍している若手のソリスト、ゲストを中心に新しい”音楽の航海”を実現したい」とも。
目玉は、本邦初演作品。148回の就任記念公演では、グラミー賞を受賞したアメリカの作曲家でもありDJでもあるメイソン・ベイツの『マザーシップ』を演奏する。この曲はYouTubeが企画した、YouTubeシンフォニーオーケストラの新作でもある。生のオーケストラの楽器とともに、テクノや電子音響など幅広い音楽的な素材を用いた作品になり、即興演奏によって演奏時間が変わってくるという。出演者には、中国で女優としても活躍し、世界の二胡コンクールでも入賞歴のあるチャン・ヒナ、天才ピアニストの牛牛(ニュウニュウ)、尺八は ”和楽器の貴公子”藤原道山を予定。エレクトロニクスも検討中で、多用な楽器を取り入れていく。
152回公演には、今年のショパン国際ピアノコンクールにも参加し、YouTubeのチャンネル登録者数80万人を誇る”かてぃん”こと角野隼斗がソリストとして登場。今注目を集めているイギリスの作曲家、トーマス・アデスの『ピアノと管弦楽のための協奏曲』を日本初演する。さらに、155回の定期公演では第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝したソリストの神尾真由子と、クラリネット奏者であり作曲家、イェルク・ヴィトマンの『ヴァイオリン協奏曲第1番』を日本初演予定だ。
さらに「若い人たちに、気軽にクラシック音楽に触れてもらいたい」という意図で、学生向けの年間パスポートを開始している。全ての定期演奏会を通して聴いて、25歳以下の学生であれば5,000円で楽しむことができる。執行は「オーケストラの演奏会を聴きに行くのは、図書館に読書をしに行く、映画館で映画を観る、遊園地に遊びに行くというコンテンツの一つになり得なければならない。違う世界に連れていってくれて、違う気分を味わうという意味で読書に近い気がする。多感な時期の学生さんに、ぜひ沢山来ていただきたい」と呼びかけ、飯森も「5,000円で全ての定期演奏会が聴けるなんてあり得ない。素晴らしい年間パスポートですね!」と太鼓判を押した。
同パスポートは今年度の4月から販売されており、チケットセンターで「25歳以下で学生」と証明すれば、この後の定期も年間5,000円で楽しめる(現在は限定販売中。事務局でのみ購入可能)。来年度分は、12月10日よりチケットセンターで発売する。今後、新型コロナウイルスの感染が収束した際にはスマホなどで気軽に買える仕組みを整え、販売数も増やしていく予定だ。新たな取り組みを進める「パシフィック フィルハーモニア東京」に、今後も注目していきたい。
飯森範親
Norichika Iimori/Conductor
桐朋学園大学指揮科卒業。ベルリン、ミュンヘンで研鑚を積み、これまでにフランクフルト放送響、ケルン放送響、チェコ・フィル、モスクワ放送響等に客演。01年、ドイツ・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団音楽総監督(GMD)に着任し、ベートーヴェンの交響曲全集を録音するとともに、日本ツアーを成功に導いた。
国内では94年以来、東京交響楽団と密接な関係を続け、現在は特別客演指揮者。03年、NHK交響楽団定期演奏会にマーラーの交響曲第1番でデビュー。06年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞、07年より山形交響楽団音楽監督に就任し、そのエネルギッシュな活動は高い評価を受けている。
2014年シーズンから日本センチュリー交響楽団首席指揮者、2019年シーズンより山形交響楽団芸術総監督に就任。2020年1月より東京佼成ウインドオーケストラ首席客演指揮者、同年4月より中部フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者。2021年4月より東京ニューシティ管弦楽団ミュージック・アドヴァイザー(次期音楽監督)に就任。 2020年10月、新国立劇場のシーズンオープニング公演であるブリテンのオペラ「夏の夜の夢」を指揮、好評を博し大成功を収めた。
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