クルレンツィス×ムジカエテルナ 初来日記念トークセッションレポート

まるでロックを聴くような高揚感、躍動するテンポ。今、クラシック音楽界で最も旬な話題のコンビ、クルレンツィス×ムジカエテルナの初来日記念トークセッションが都内で行われ、テオドール・クルレンツィス(指揮者)、パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)、マルク・デ・モニー(ペルミ・オペラ・バレエ劇場ゼネラル・プロデューサー兼ムジカエテルナ事務局長)が登壇した。

ザルツブルク音楽祭に2年連続出演し、チケットは即日完売。2017年度、2018年度の音楽之友社主催「レコード・アカデミー賞」では大賞を受賞し、HMV&BOOKS online 第1回 クラシカルアワードでも第1位を獲得した。今まで聴いたことのないような鮮烈な音楽が多くの人を魅了している彼らのトークセッションとあり、多くの報道陣が駆けつけた。

そんな中クルレンツィスは開口一番、意外な言葉を口にした。

「私たちの演奏には賛否両論がありますが、実はとても保守的です。作曲家が本当に求めているものは何なのか、そこに自分たちの信念を持って音楽を奏でているだけだから。もし作曲家が私たちの音楽を聴いたなら、きっと満足してくれるでしょう」

彼らの演奏を聴いた誰もが、驚き、価値観を変えさせられる。それを『斬新』だと表現する人も少なくない。しかし、彼らの意識はまるで違っているのだ。

「世の中は商業的になっていて、信念を持つ人が少なくなっている。なので逆に、信念を持っている人を見ると奇妙に見えるのかもしれない。でも私たちは信念を持ち続けることはとても重要だと思っています」(クルレンツィス)

コパチンスカヤ、クルレンツィス

左より:コパチンスカヤ、クルレンツィス

今回が初来日となるクルレンツィスは、日本に新しい音楽を届けることのできる機会を嬉しく思うと語り、「クラシック音楽に新鮮な空気を吹き込み、今まで以上に発展させていくことが重要。そうすることで音楽に新たな視点が生まれるでしょう」と展望を述べた。

クルレンツィス

クルレンツィス

ムジカエテルナとの共演も多く、世界中で評価されるヴァイオリニスト、コパチンスカヤは日本好きとしても知られているが、日本の聴衆は他とは違う耳を持っていると感じているという。さらに「歌舞伎や能が人々を魅了する力に、西洋人とは違う、エネルギーがある。日本の聴衆の緊迫感や静寂の理解度はとても素晴らしい。唯一無二の感性で音楽を聴く。そういう力を感じます。それに比べると私たちは象のようです(笑)」とコメントし会場の笑いを誘った。

コパチンスカヤ

コパチンスカヤ

事務局長のマルク・デ・モニーも「今年はムジカエテルナの変革の年。その時に日本で演奏できたことに大きな価値を見出しています」と今回の初来日に手ごたえを感じている。

マルク・デ・モニー

マルク・デ・モニー

ムジカエテルナは言うならば夢のオーケストラ。録音は近年では考えられない完成度で、それはグレン・グールドを彷彿させるほど。何度も何度も納得がいくまで録り直し、全員で命を懸けて音楽を創り上げる。常に夢を追い求めている彼らにとって、変革は必要不可欠。ひとつ夢を叶え、次に新しい夢を追い求めるという“変化”が、原動力になるのだ。

クルレンツィスは実に真剣なまなざしで、私たちに語った。

「私たちの仕事には大きなミッションがあります。スコアに書かれている音符を再現する中で、音楽に秘められたスピリットを再現するということ。そのためには、自分が精神的に理解し、感情を持たなければ本当の意味を伝えることはできないのです。99パーセントの人が音を正確に出すことや表面上のテクニックだけで演奏していて、最近のクラシック音楽は見せかけになってきているように感じます」

彼は、“周波数を合わせる”ということをとても大切だと考えている。偉大な作曲家たちがそうだったように、感情を持ち音楽を奏でることで、その時々の演奏が変わる。それを作曲家と、一緒に音楽を奏でる仲間と周波数を合わせ、支え合いながら演奏するとき、精神と身体が見事に重なり、天使が歌うような瞬間が訪れるというのだ。

これほどまでに徹底された演奏はクルレンツィス、そしてムジカエテルナのメンバーの信念と情熱から成り立っている。一体、この情熱はどこから来ているのか。

コパチンスカヤ、クルレンツィス

左より:コパチンスカヤ、クルレンツィス

クルレンツィスがギリシャからロシアに渡った背景には、ベルリンの壁が崩壊した1980年代が影響している。レジスタンスの空気が漂う中、若者はグローバリゼーションや資本主義社会に抵抗していた。

「私は90年代のハイテク時代になっても80年代の革命の精神を持ち続け、アンダーグラウンドの世界にとても惹かれるようになりました。その当時はサンクトペテルブルクが世界で最も素晴らしい都市だったと考えられていたので、ロシアに渡ったのです。そこには、様々な出会いがありました」(クルレンツィス)

信念を持ち、作曲家の思いを元に音楽を再現する。そこには、今のクラシック音楽界に“革命”を起こすような強い精神があったのだ。それ故に我々の心がここまで揺さぶられるのだろうと合点がいった。

コパチンスカヤ、クルレンツィス

左より:コパチンスカヤ、クルレンツィス

最後に、コンテンポラリーの日本人作曲家について質問が及ぶと、クルレンツィスは「素晴らしい作曲家が本当にたくさんいる。取り上げたい作品もたくさんあります。日本の作曲家でいうともちろん武満徹が大好きです。あとは日本のアンダーグラウンドについてももっと知っていきたいですね」とコンテンポラリーシーンへの興味を強く示すと共に、次回の来日では、じっくりと日本文化を知るための観光がしたいと語った。

コパチンスカヤは日本人作曲家との関りが深く、昔からの友人である大井浩明とは共演もしている。また、藤倉大の作品を大阪公演のアンコールで演奏する予定だ。

世界の音楽シーンを席捲するクルレンツィス×ムジカエテルナとコパチンスカヤ。次回の来日公演はいつになるのか、どんな演奏が聴けるのか。これからさらに進化していく様を楽しみに待ちたい。

 

テオドール・クルレンツィス(指揮者)

ギリシャのアテネ生まれ。ギリシャ国立音楽院で学んだ後、1994年にロシアに移り住む。サンクトペテルブルク音楽院でイリヤ・ムーシンに指揮を学ぶ。
自ら組織したムジカエテルナとムジカエテルナ合唱団を率い、拠点であるロシアのペルミ(ディアギレフの生地)を中心に、今や世界各地一ザルツブルク音楽祭やウィーン・ムジークフェライン、ベルリン・フィルハーモニー、パリのフィルハーモニーやミラノ・スカラ座で演奏し、大きな反響を巻き起こしている。その演目はラモーやモーツァルトのオペラから「レクイエム」、ベートーヴェン、マーラー、ショスタコーヴィチの交響曲、プッチーニのオペラと実に多彩。ほかにも、ペルミ国立オペラ・バレエ劇場や同地で行われる国際ディアギレフ音楽祭の芸術監督、マーラー・チェンバー・オーケストラのアーティスティック・パートナーなどを務め、2018/19年シーズンからはSWF響の首席指揮者にも就任した。

 

ムジカエテルナ(管弦楽)

クルレンツィスにより、ロシアを中心に各地から集められた精鋭たちによる楽団。現在はペルミのレジデント・アンサンブルであり、ペルミ国立オペラ・バレエ劇場の第1オーケストラでもある。クルレンツィスとともに世界中で話題の公演を繰り広げている奏者たちは、レパートリーによってピリオド(古楽器)やモダン楽器を使い分け、その作品に相応しい響きと可能性を膨大な時間をかけて追究、結果恐ろしいほどの完成度を誇る斬新な演奏が出現する。近年のハイライトにはモーツァルト「レクイエム」やマーラー「交響曲第1番」で登場した2017年のザルツブルク音楽祭、ルール・トリエンナーレでのワーグナー「ラインの黄金」(2015)などが挙げられる。数々の受賞に輝いたモーツァルトのオペラやチャイコフスキー「悲愴」、マーラー交響曲第6番「悲劇的」など、ソニークラシカルからリリース。

 

パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)

1977年、音楽家の両親のもとモルドヴァに生まれる。ウィーン国立音楽演劇大学とベルン音楽院でヴァイオリンと作曲を学ぶ。2001年には「クレディ・スイス・グループ・ヤング・アーティスト賞を受賞して、翌年9月、ルツェルン・フェスティバルにおいてマリス・ヤンソンス指揮ウィーン・フィルとの共演を果たした。以来、極めて個性的な演奏でフランス国立管、ベルリン・ドイツ響、マーラー・チェンバー・オーケストラ、N響などと共演し、ザルツブルク音楽祭など世界各地の音楽祭に出演している。現代曲にも深く取り組み、オットー・ツィーカンやファジル・サイなど、多くの作曲家が彼女に楽曲を書いている。クルレンツィス&ムジカエテルナとの共演も多い。

 

マルク・デ・モニー(ペルミ・オペラ・バレエ劇場ゼネラル・プロデューサー兼ムジカエテルナ事務局長)

1971年、イギリス人の両親のもとパリに生まれ、1992~1993年にはサンクトペテルブルク音楽院で歌とヴァイオリンを学んだ。1998年~2000年にサンクトペテルブルクのブリティッシュ・カウンシル芸術担当を務め、ピーター1世の英国大使館300周年記念式典の芸術プログラムを担当している。1998年、芸術監督としてヴァイオリニストのAndrei Reshetinと共に、サンクトペテルブルク国際古楽フェスティバルを設立。その後、2007年にはスポンサーシップと慈善活動の担当としてRaiffeisenbankで務めたのち、2010年にサンクトペテルブルクのミハイロフスキー劇場の開発部長として芸術分野へと復帰、2011年よりペルミ・オペラ・バレエ劇場のジェネラル・マネージャーに就任。

 

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