『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

オーケストラの新しい可能性を探り、新しい音楽の楽しみ方を提案する『落合陽一×日本フィル プロジェクト』。メディアアーティストの落合陽一と日本フィルというコラボレーションは、音楽やアートという枠を超えて、あらゆる人々が様々な方法で同じように音楽を楽しめる、社会貢献という視点でも注目を集めている。

VOL.3となる今回は、≪耳で聴かない音楽会2019≫と≪交錯する音楽会≫という方向性の異なる2つの音楽会によって、テクノロジーでオーケストラを再構築(アップデート)するという。

公演に先駆け、演出の落合陽一氏、指揮者の海老原光氏、“映像の奏者”としてビジュアルデザインを担当するWOWの近藤樹氏、3人による公開インタビューが行われた。

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

最初に、今回2つの音楽会にわけた意図やコンセプトについて、昨年の2公演を振り返りながら落合氏が語ってくれた。

「2018年に開催したVOL.1≪耳で聴かない音楽会」は、耳で聴かないでも音楽を楽しむためにはどんなことができるのか、というコンセプトを様々な方法で試して、その可能性を探るコンサートでした。その後のVOL.2≪変態するオーケストラ≫では、目で見たものと耳で聴いたものがクロスモーダル的になる状態、つまりOntenna(オンテナ)やSOUND HUG(サウンドハグ)といった耳が聞こえない人でも音楽を楽しめる聴覚補助装置を映像と組み合わせて、さらにダンサーの持つ電飾棒や映像の表現も加えることで、目で見るとか耳で聴くとかを意識しなくても楽しめるような、より共感覚的な音楽会になりました。そうやって多様な表現が混ざって複雑になることで、沢山のメディア装置が集合し、通底した感覚を伝えることでダイバーシティを形成するっていうのが目標でしたね」

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

「今回のVOL.3では、≪耳で聴かない音楽会≫はより、ダイバーシティを。「耳で聴かない」エッセンスの方に注力して、もっと視覚や触覚で楽しんでもらおう、というのがコンセプトです。≪交錯する音楽会≫は、前回の共感覚的な側面、目で見る音楽とか“映像の奏者”っていうコンセプトが面白かったので、その方向性を踏襲しつつ、なぜ我々が今この表現を行うのか、というコンテクストを含めさらに深掘りしたいと思っています」

「≪耳で聴かない音楽会2019≫はより音楽をみんなで楽しめるように、≪交錯する音楽会≫は今のオーケストラのスタイルを現代の技術を使ってどう変えられるか、それらを主役のオーケストラの人々と対話しながらどうアップデートしていけるかを意識してつくっています。「オーケストラとなにか」、ではなく、あくまで「オーケストラの一部」にそういったメディア装置を入れるかどうかという観点でみることが重要です」

指揮者の海老原氏は、音楽会を創り上げていくプロセスの中で感じる今回の音楽会が目指すものについて、自らの考えを話してくれた。

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

「僕は音楽的側面からのアプローチを担っていますが、落合さんや近藤さんとイメージを話しているうちに、各々が違うアプローチをしながらも結局は一つのものに集約していくところがあります。前回からやってきて究極的に目指すところは、音楽を聴いて感じること、映像を見て感じることが同じであればいい、それが鍵かなと思っています。つまり、目が見えない人が音楽だけ聴いても、耳が聞こえない人が映像だけ見ても、コンサートが終わって帰る時の感情は同じものであって欲しい、それを目指していければいいかなと」

“映像の奏者”としてオーケストラと競演する近藤氏は、自らの役割を踏まえた上でその可能性を語った。

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

「“映像の奏者”というのは、落合さんから説明いただいたところでいうと、『オーケストラの音楽に単に映像を付けたい訳ではない。例えばモーツァルトの時代に作曲された楽譜の中に、映像ソロというパートがあったとして、それを今のテクノロジーを使って表現してみよう、オーケストラ奏者の一員として映像の人が入ったらどうなるか試してみよう。』ということなんです」

「映像を通じて視覚に与えられる情報の広さや繊細さ、明快さっていうのをコントロールできると思っているので、今回も“映像の奏者”として、聴いている人見ている人の頭により想像を広げて、音楽を聴いた人と同じような感覚、まさに共感覚を得てもらえるのではと可能性を感じています」

今回のテーマともいえる「再構築(アップデート)する」とは具体的にどういうことなのか。

落合氏は「テクニカルな話とクリエイティブな話がいくつかある」と話し、≪耳で聴かない音楽会2019≫では「音声文字変換アプリ(協力:Google)の導入、SOUND HUGやOntennaのアップデート、さらに映像もコンピュータグラフィックスを用いて、音と触覚・音と視覚といった共感覚へのアプローチに力を入れる」と説明した。

また≪交錯する音楽会≫では、「今回は映像によりフォーカスして、会場となる東京芸術劇場の立体感のある舞台でどう演出するかを考えています。そして、前回は共感覚に寄っていたが今回はコンセプトをしっかり保ちながらやりたい」と話した上で、音楽会の核となるコンセプトについて次のように語った。

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

「オーケストラはあくまでも輸入物であって、輸入物としてのオーケストラが100年の中でどのように日本で受け入れられてきたかをしっかり考えてみようと思いました。それは明治時代にあった和洋折衷文化、農村風景なのか、大正から昭和にあった戦争なのか、高度成長期のいわゆる家庭のカレーライスの味なのかっていうのを考えたとき、そういった経済発展とともにオーケストラを見たりたり聴いたりCDを買ったり、という文化が成長してきたのではないか。大量消費社会、メディア装置、マス化するオーケストラ文化。その日本のにおいが消し切れないオーケストラというものをどのように曲の選曲や表現形態であわせていけるのかということをを意識して選曲や演出を行っています。そこは前回と違ってストーリー的につくっていて、前半はコンテクストを考えて、後半は視覚から聴覚、そしてそれらを通底する波動と対話することを意識しています」

≪交錯する音楽会≫では、日本の「民謡」をテーマとした小山清茂作曲『管弦楽のための木挽歌』が演奏され、「民謡が芸術作品になるまで」を感覚的に紹介する。「和×洋の融合」=「日本のものを取り込んでアップデート」するという今回の音楽会について落合氏は「オーケストラと日本のものがミックスされた時に『なるほどね』みたいな、DNAを感じてほしい。今回はそうやっていろいろなものを混ぜてきた日本人のDNAを是非感じて欲しいですね。」と思いを寄せた。

ここまでの話を聞いていると、何だかとても難しい学術的な音楽会のように思えて身構えてしまいそうになるが、落合氏はターゲットについての話の中で「どっちの音楽会もアートでもあり、エンタテインメントでもあります。≪耳で聴かない音楽会2019≫は新感覚系だけど分かりやすくて楽しい、≪交錯する音楽会≫はこんな表現方法もあるのかみたいな狂気的な感じ。そこを上手くわけているので、小さなお子さんでも楽しんでくれるといいなと思っています」と話してくれた。

受け手(聴衆)に対して近藤氏は「今回のどっちの演奏会も答えを押し付けるようなことはしたくなくて、ある程度みなさんの頭の中で広がるような形、想像がそれぞれに行き渡るような形が望ましいと思っています」と話し、海老原氏も「クラシック音楽を普段から聴く人は音とともに映像や風景が自然と頭の中にあることが多いです。だから『どうやって聴くの?何を聴くの?何が楽しいの?』という人たちも、音楽が映像と組み合わさることによって『こういう感覚なんだ』ってことが分かってもらえると、僕も音楽家としてとても嬉しい」と思いを伝えた。

『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.3』公開インタビューレポート

3人の話や会話から垣間見えたのは、クラシック音楽やオーケストラといった伝統に対する尊敬の念。その想いで音楽作品を深く丁寧に考察した結果、各々のアプローチが想像を超えた相互作用を生み出していく。

クラシカルなモーツァルトの音楽だって、その時代では最先端なものとして驚きを持って受け入れられた。落合氏と日本フィルによるテクノロジー×オーケストラのアップデートという最先端な音楽会も、いずれは伝統となることだろう。その伝統が生まれる現場に足を運ぶことで、私たちもアップデートされていくのが楽しみでならない。

 

落合陽一×日本フィル プロジェクトVOL.3

演出:落合陽一
出演:海老原光(指揮)、日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)、江原陽子(ファシリテーター)
ビジュアルデザイン:WOW
照明:成瀬一裕

第1夜 Diversity『耳で聴かない音楽会 2019』
日時:2019/8/20(火)
場所:東京オペラシティ コンサートホール タケミツ メモリアル
演奏曲目:
パッヘルベル:カノン
サン=サーンス:『動物の謝肉祭』オーケストラ版、他

第2夜 Art『交錯する音楽会』
日時:2019/8/27(火)
場所:東京芸術劇場 コンサートホール
演奏曲目:
小山清茂:管弦楽のための木挽歌
ドビュッシー:交響詩『海』より第3楽章「風と海との対話」、他

チケットはこちら
※ローチケサイトに移動します。

関連ニュース

日本フィルが落合陽一とタッグを組み、テクノロジーでオーケストラコンサートをアップデート

記事はこちら

落合陽一(演出)
Yoichi Ochiai,director

メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST xDiversity プロジェクト研究代表・一般社団法人 xDiversity 代表理事・ピクシーダストテクノロジーズ株式会社代表取締役。2015年World Technology Award、2016年Prix Ars Electronica、EUよりSTARTS Prize受賞。Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞など、国内外で受賞多数。直近の個展として「質量への憧憬(東京・品川、2019)」など。近著として「日本進化論(SBクリエイティブ)」、「デジタルネイチャー(PLANETS)」、写真集「質量への憧憬(amana)」

 

海老原光(指揮)
Hikaru Ebihara,conductor

鹿児島生まれ。鹿児島ラ・サール中学校・高等学校、東京芸術大学を卒業、同大学院修了。その後、ハンガリー国立歌劇場にて研鑽を積む。2007年ロブロ・フォン・マタチッチ国際指揮者コンクールで第3位を受賞。指揮を小林研一郎、高階正光、コヴァーチ・ヤーノシュの各氏に師事。2019年、九州シティフィルハーモニー室内合奏団首席指揮者に就任。これまでに、国内主要オーケストラを指揮し、好評を得ている。また、2012年、2015年にクロアチア放送交響楽団の定期公演(ザグレブ)に出演し、現地で好評を博した。2019年にはゲデレー交響楽団に客演予定。

 

WOW(ビジュアルデザイン)
WOW,visual design

東京、仙台、ロンドン、サンフランシスコに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ。CMやコンセプト映像など、広告における多様な映像表現から、さまざまな空間におけるインスタレーション映像演出、メーカーと共同で開発するユーザーインターフェイスのデザインまで、既存のメディアやカテゴリーにとらわれない、幅広いデザインワークをおこなっている。

 

近藤樹
Tatsuki Kondo

TV番組やイベント、コンサートの映像制作を経て、CINEMA 4Dやafter Effectsを用いた映像制作・空間演出を手がけている。光や風、動力といった身近にある現象を取り入れた空間演出やインスタレーションを得意とする。映像や空間といった枠組みを越えて、さまざまな現象が持つ美しさを再構築し、鑑賞者にその世界観が伝わる作品づくりを心がけている。

 

日本フィルハーモニー交響楽団
Japan Philharmonic Orchestra

1956年創立。創立指揮者渡邉曉雄。60年を超える歴史と伝統を守りつつ、さらなる発展を目指し、「オーケストラ・コンサート」、「リージョナル・アクティビティ」、「エデュケーション・プログラム」という三つの柱で活動を行っている。首席指揮者ピエタリ・インキネン、桂冠指揮者兼芸術顧問アレクサンドル・ラザレフ、桂冠名誉指揮者小林研一郎、正指揮者山田和樹、ミュージック・パートナー西本智実という充実した指揮者陣を中心に演奏会を行い、“音楽を通して文化を発信”している。2011年4月より、ボランティア活動「被災地に音楽を」を開始。2019年5月末までに268公演を数え、現在も継続している。落合陽一とのプロジェクトにより、カンヌライオンズ2019 エンターテインメント・フォー・ミュージック部門ブロンズ、第72回広告電通賞イノベーティブ・アプローチ最高賞・特別賞、日本マーケティング大賞 奨励賞、第5回JACEイベントアワード優秀賞受賞。

 

日本フィルハーモニー交響楽団 演奏会情報
日本フィルハーモニー交響楽団 演奏会情報
公演日 : 下記からご確認ください
公演の詳細をみる