
はじめてのクラシック
クラシックが聴きたいけど何から聴けばいいのか・・・そんな初心者の皆さんに贈る名曲5選
2022年01月28日
クラシック音楽を扱っている映画は多々ありますが、みなさんはどれくらいご存じでしょうか?ひびクラでは、1月28日より公開の、実在の楽団にインスパイアされて誕生したクラシックの名曲が多数登場する映画『クレッシェンド 音楽の架け橋』をはじめ、いま観ておきたい新旧・名作映画5作品をご紹介。映画ライター・山口由美子さんに解説頂きました。
不思議な”縁”で繋がる5選
今回、新作からは『クレシェンド 音楽の架け橋』と「劇場版パヴァロッティ ハイドパーク コンサート」、「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」の3作品と、旧作より「オケ老人」と「愛と哀しみのボレロ」2作品をご紹介します。この5作品、一見すると全く関係のないラインナップであるように思えるものですが、実は作中で使われている曲などに共通点が多く、不思議な“縁”で繋がって循環しているような気もする5選となりました。
例えば、「天才ヴァイオリニストと消えた旋律」と『クレッシェンド 音楽の架け橋』にバッハの無伴奏、「天才ヴァイオリニスト~」と「愛と哀しみのボレロ」にはベートーヴェンの曲が使われていたり。「オケ老人」と『クレッシェンド~』はドヴォルザーク「新世界」の家路とヴィヴァルディ「四季」が重なっています。同じ曲が全然違う印象に聴こえます。さらに「劇場版パヴァロッティ ハイドパーク コンサート」ではヴェルディ「ナブッコ」ユダヤ人の捕囚が、「帰れソレントへ」では望郷、故郷を想う気持ちが歌われます。これらの作品からは、音楽とはなにか?クラシック音楽と戦争の関係、そして人生の機微が浮かび上がります。
1. クレッシェンド 音楽の架け橋(2022)
どんな映画?
“世界で最も解決が難しい”とされ、今なお紛争が続くパレスチナとイスラエルから、音楽家を夢見る若者たちを集めてオーケストラが結成されるー。実在の巨匠指揮者D・バレンボイム 率いるウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団に着想を得た物語。彼らは対立を乗り越えて音楽で共存することはできるのか?
見どころ&聴きどころ
冒頭、破壊される街の中ー。そんな状況下にありながら行われるヴァイオリンの練習場面から緊張感が続きます。コンサートまで21日間の合宿をすることになりますがその行方は?若者たちの対立と葛藤、恋と友情を彩るのは、ラヴェルの「ボレロ」、パッヘルベルの「カノン」、ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』第2楽章」、「四季〔冬〕」など名曲の数々です。
今回の5選を挙げた時に感じた不思議な”縁”での繋がり…。例えば4選目でご紹介する「オケ老人」と本作どちらにも「新世界」の第二楽章が使われており、「オケ老人」での懐かしい”家路”というイメージはみんなの心の中にもある心象風景と重なる部分と思いますが、『クレッシェンド~』のそれは”痛みを伴う故郷の姿”です。そう思って聴くからか、同じ曲でも印象が全然違って聴こえるのは、映画のおもしろいところ。また、本作では「四季」の[冬]を使っているのに、「オケ老人」では[春]が使われています。そんな共通点や違いを、見て・探してみてください。
『クレッシェンド~』の主演は映画『ありがとう、トニ・エルドマン』のペーター・シモニシェック。各国の映画祭で熱い喝采のもと4つの観客賞を受賞した本作!ラストに待つ魂の協奏があなたの心にはどう響くでしょうか?
公開日: | 2022/1/28 |
配 給: | 松竹 |
上映劇場: | 新宿ピカデリー ほか全国順次公開 |
2. 劇場版パヴァロッティ ハイドパーク コンサート(2022)
どんな映画?
土砂降りの雨の中、15 万人以上もの人々が聴き入る歌声。1991 年7 月に行われたルチアーノ・パヴァロッティのロンドン・ハイドパークでの伝説の野外コンサートが劇場版5.1ch デジタルリマスターで蘇る。チャールズ皇太子、ダイアナ妃、メージャー首相、俳優のマイケル・ケインなど錚々たる面々も参加している。
見どころ&聴きどころ
昨年のロン・ハワード監督作品「パヴァロッティ 太陽のテノール」が彼の人生の軌跡とすれば、こちらはその中の光輝く一点となる1本です。歌劇「ルイザ・ミラー」「アフリカの女」「カヴァレリア・ルスティカーナ」「トスカ」「道化師」などの名曲から、彼の代名詞「トゥーランドット」の“誰も寝てはならぬ”まで太陽の歌声が響き、本当に次第に晴れ間が出てくるのはまさに神の御業。歌劇「マノン・レスコー」の“なんと素晴らしい美人”(Donna non vidi mai)を、チャールズ皇太子に断ってダイアナ妃に捧げるお茶目な一面も微笑ましい場面です。またフルートのアンドレア・グリミネッリの独奏やフィルハーモニア合唱団による歌劇「ナブッコ」の“行け、我が想いよ、金色の翼に乗って”なども聴きどころ。「ナブッコ」のこの合唱は、旧約聖書のバビロン捕囚を題材にしたユダヤ人の捕囚たちのせつない望郷の思いが歌われています。
公開日: | 2022/1/14 |
配 給: | ギャガ GAGA★ |
上映劇場: | 東京・Bunkamura ル・シネマほか 全国順次公開 |
公式サイトはこちら
https://gaga.ne.jp/pavarotti-hp/
3. 天才ヴァイオリニストと消えた旋律(2021)
どんな映画?
第二次世界大戦下のロンドン。9歳で出会いともに育ったマーティンとポーランド系ユダヤ人のドヴィドル。将来有望なヴァイオリニストとなったドヴィドルはデビューコンサートの日に忽然と姿を消した。35 年後、ある手掛かりをきっかけにドヴィドルを探す旅に出るマーティン。彼はなぜ失踪し、何処に行ったのか?その旅路の先には思いがけない真実が待っていた。
見どころ&聴きどころ
監督は「レッドヴァイオリン」のフランソワ・ジラール。35年後のマーティンをティム・ロス。ドヴィドルをクライヴ・オーエンがそれぞれ演じています。幼い2人が出会った当初の演奏合戦は見応えも聴き応えも抜群!ヴァイオリン演奏はレイ・チェン(※1)。パガニーニ「24 の奇想曲」、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2第5曲「シャコンヌ」はよく耳にする曲ですが、このミステリアスな雰囲気がドヴィドルの失踪の謎を一層際立たせています。ブルッフ「ヴァイオリン協奏曲 第1番」やべートーヴェン「6つのバガテル」、ヴィエニャフスキ「創作主題による華麗なる変奏曲」、クライスラーの「愛の悲しみ」などの名曲が2人の数奇な人生を彩ります。
※1)レイ・チェン:Profile▶1989 年生まれ。台湾出身のオーストラリア人ヴァイオリニスト。4歳でヴァイオリンを開始し、98 年には長野オリンピックの開会記念コンサートにも参加。2009 年のエリザベート王妃国際コンクールでは史上最年少で優勝。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団とも共演し、3枚のアルバムをリリース。うち1枚目の「ヴィルトゥオーゾ」はエコークラシック賞を受賞。
公開日: | 2021/12/3より全国順次公開 |
配 給: | ギャガ GAGA★ |
上映劇場: | 新宿ピカデリーほか 全国順次公開 |
公式サイトはこちら
https://songofnames.jp/
4. オケ老人(2016)
どんな映画?
おそらく平均年齢世界最高齢の「梅が岡交響楽団」に間違えて入団してしまった高校教師(杏)が、アマ・オケの立て直しに奮闘しつつ自身も成長していく様を描いたコメディ映画。左とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎、茅島成美、喜多道枝、森下能幸、笹野高史といった、ひと癖もふた癖もあるツワモノがユニークなアマ・オケを構成。これが初主演となる杏はヴァイオリンのボーイングも大特訓して臨んでいる。
見どころ&聴きどころ
この物語の冒頭で聴こえてくるのはベルリオーズ「幻想交響曲」の第5楽章。本作では2つの楽団が登場するのですが、この演奏は『梅が岡フィル』。ただ、名前が紛らわしい…。主人公が間違えて『梅が岡交響楽団』の方に入団してしまうと、そこはとんでもない超高齢オーケストラだった…というところから物語が始まります。
劇中では、超高齢交響楽団の面々がエルガー「威風堂々」やヴィヴァルディ「四季」の第1楽章(春)など聞き馴染みあるものの、実際演奏するとなるとなかなか手強い曲に挑戦。老人たちが練習している姿は、老いと演奏のシビアな現実、オーケストラあるあるを決して重くなることなくコミカルに描いています。そんなシビアな状況下にもかかわらず、演奏会でのドヴォルザーク「新世界」の第2楽章「家路」は、長く生きてきた人々の人生の機微に溢れた圧巻の名演奏。つい涙ぐんでしまうのは私だけでしょうか――。
この映画、公開当時のキャッチコピーは「人生まだまだひと花咲かせましょう!」でした。このキャッチコピーが老人のことだけに限らないことー。年齢関係なく心に刺さる人たちもいるかもしれません。
また、本作の原作は荒木源の同名小説「オケ老人!」なのですが、映画と小説では大きな違いがあります。クラシック音楽のウンチクやオーケストラあるあるも満載なので、映画と小説、見比べてみるのもオススメですよ。
5. 愛と哀しみのボレロ(1981)
どんな映画?
クロード・ルルーシュ監督による、1930 年代から1980 年代のフランス・アメリカ・ロシアを舞台に描く大河ドラマ。2世代4組の音楽家と家族の物語。ヒトラーの前で演奏して絶賛され、戦後はナチの協力者のレッテルを貼られてしまう指揮者や、強制収容所に運ばれる列車からそっと赤ちゃんを下ろす母。様々な生き様が重層的に交錯していくが、生き残った人々はパリのチャリティ公演に集結していく――。
見どころ&聴きどころ
タイトルロールでもあるラヴェルの「ボレロ」はもちろん、ショパン「夜想曲」、ブラームス「交響曲第1番」、ベートーヴェン「交響曲第7番」「月光」、リスト「ファウスト」などの名曲が散りばめられ、それぞれの人生を彩ります。それぞれの核となる人物にはモデルがあり、カールはカラヤン、セルゲイはバレエのルドルフ・ヌレエフ、エヴォリーヌはエディット・ピアフ、ジャック・グレンはグレン・ミラーを彷彿とさせており、ひとり二役を演じている俳優もいて、それは生々流転や転生を見ているかのよう。全ての人々の人生が集約されて最後にジョルジュ・ドンが踊るボレロは圧巻!クレッシェンドで終わるのですが、その物語は現在にも続いているのです。ちなみに原題は「LES UNS ET LES AUTRES/BOLERO」(「男たちと女たち/ボレロ」)。「男と女」で有名なルルーシュ監督は終生、男と女についての作品を撮り続けました。
発売日: | 2013/3/30 |
レーベル: | マーメイドフィルム |
フォーマット: | DVD |
※ DVDは現在お取り扱いしておりません。
文/映画ライター 山口由美子
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ニュース2022/1/21
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