2023年10月16日

【ベルリン・フィル、来日特別企画】荒川文吉(オーボエ)~ ひびクラinterview

本記事は、2020年2月に行なったインタビューを再編集しています。

ベルリン・フィルに縁のある、オーボエ奏者の荒川文吉さんにインタビュー!


「べルリン・フィルが新宿御苑の野外公演で第九を演奏する」と大きな話題になったのが約3年半前のこと。当時、コロナ禍で同公演は幻となり、ここ数年間で数々の来日公演が見送られました。そして2023年、首席指揮者・芸術監督キリル・ペトレンコとベルリン・フィルの待望の来日が決定! 本公演に際し、2020年の来日公演時に東京フィルハーモニー交響楽団のオーボエ首席奏者・荒川文吉さんに行った取材を再編集でご紹介。
荒川さんは、2017年~2019年までベルリン・フィルが世界に誇る音楽家教育機関『ベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミー』にも在籍。そんな荒川さんに聞いた“音楽の都” ドイツでの留学時のお話、楽団員との貴重な裏話までをお届けします。



ー 荒川さんがドイツに留学したきっかけを教えてください。

ベルリン・フィル首席オーボエ奏者のジョナサン・ケリーに習いたかったというのが大きな理由ですね。元々、留学には興味があったのですが、学生のうちに東京フィルに入団してしまったのでなかなかタイミングが無くて。そんな中2016年の夏に、長いお休みが取れたのでヨーロッパに行ってみたんです。色んな人のつてを辿ってレッスンを受けながらドイツやスイスを旅して過ごしました。そうしているうちに、やっぱりこのタイミングでゆっくり勉強し直したいと思い、帰国してすぐにアフィニス文化財団の奨学金に申し込んで、オケの人には「来年1年間お休みします」と突然言って(笑)。

実際に肌でヨーロッパの空気を味わったら、それまでなんとなくだった留学への思いが現実味を帯びて、大きくなったんです。大学時代から、色々なオーボエ奏者のマスタークラスを日本で聴いてきたんですが、ジョナサンは演奏もレッスンも素晴らしく、絶対に習いたいと思ってました。そのことを彼に伝えたところ、自分のレッスンを受けるなら、プライベートで習うか、ベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーで勉強するか、その2つの手段があると教えてもらったんです。

 

ー カラヤン・アカデミーというのは、希望したら誰でも入れるのでしょうか?

いやいやいや、そんなことはありません(笑)! 厳しいオーディションをくぐり抜けた人だけが入れるんです。世界中の若い奏者がこぞって受験するので倍率がとても高くて。ベルリン・フィルのメンバーが審査員で、受験者に良いと思える人がいなかったら「合格者なし」ということもあります。

僕は、勧められる前から受験を考えていたのでジョナサンから話が出た時にすぐに「受けたいです!」と言いました。アカデミーは受かったら2年間在籍しなくてはならないので、本来の1年間の留学予定より伸びてしまう。そのことを東京フィルに相談したところ、大丈夫とのことだったので受験してみたら、本当に受かってしまって……! 夢のようでしたね。日本から受けに来る人は珍しいので不安もありましたが。

 

ー 日本人があまり在籍していないということですか?

日本人は数人いるんですけど、国際色豊かで色々な人種の人が在籍しているので割合で言えば少ないかな……。まず、日本人で受ける人は大体留学してヨーロッパにいる人ばかりなんですよね。だから僕みたいに日本からぽっと出て行って受けた人はいなくて、1次試験に通った時に団員さんたちの中で話題になったらしいんです。「あの日本人は誰だ!? 知ってるか!?」って。それで受かっちゃったもんだから、「あいつが受かったらしいぞ!」とさらに話題に(笑)。

でもそれって、よく考えるとフェアに審査してもらえているということなんですよね。名前も知らない僕を、本当に演奏だけで良いと思って合格させてくれたのですから。どんな人にもチャンスがあるっていう。

 

荒川文吉

 

ー 実際にアカデミーに入ってみると、どんなメリットがあるのでしょう?

まず、ベルリン・フィルの団員のレッスンを受けることができます。オーボエだけじゃなくて他の楽器もOK。アンサンブルをやっている時はヴァイオリンの方にレッスンを受けたこともありました。

そして、先程述べたように色々な国のアカデミー生がいるのでドイツ語の授業もあります。基本的には英語でなくドイツ語でやりとりをするので必要なんです。

何と言っても一番のメリットは、研修の一環としてベルリン・フィルの本番に乗れること。実際に団員さんの隣で吹く体験というのはなかなかできないですからね。ちなみに吹くだけじゃなくてベルリン・フィルの全公演を聴くこともできます。

 

ー 至れり尽くせり! こんな体験ができるのは、カラヤン・アカデミーだけですね。

そうなんです! 入ってみて一番驚いたのは、アカデミー生という勉強しに来ている立場でも『ベルリン・フィルの一員』として仲間に思ってもらえることです。

入って間もない頃、首席オーボエ奏者のアルブレヒト・マイヤーに突然呼び出されたことがあったんです。なんだろう、と思っていたら「新しいコールアングレ(イングリッシュホルン)をいくつか試したいんだ。舞台上で吹くから客席で聴いてみてもらえないか」と言われて。その時はまだあまり上手くドイツ語を喋れなかったんですけど、聴いて感じたことを一生懸命伝えました。もうすでに仲間だと信頼されていることがとにかく嬉しかったです。

 

ー ベルリン・フィルは歴史のあるオーケストラだし、少し保守的なイメージがあったので意外です!

僕は逆で、ベルリン・フィルは『一番新しいオーケストラ』だと思っています。とてもインターナショナルで、実は団員さんもドイツ人以外が約半分くらいいるんです。僕の習っていたジョナサンもイギリス人だし。だからなのか、音楽で繋がることができれば人種や国籍は関係ないという考え。受け入れることに対してとにかく寛容なんです。雰囲気もとても良くて、みんなお互いを認め合っている。

演奏面でもそれを感じますね。まず、各々が自分の主張をはっきりとして演奏するのが良しとされている。合わせようっていう感覚が良い意味であまりないんです。だから、初めてオケ中に入った時には驚きました。これって合うんだろうか?って。本当にみんな合わせる気がないのに、合っちゃうんですよね。本当に不思議な楽団。

 

荒川文吉

リードケースに収められた荒川さん手作りのオリジナルリード。完成までに物凄い時間と労力がかかるそう。まさに汗と涙の結晶。

 

ー 合わせようとしなくても自然と合っちゃう。どうしてなのでしょうか?

多分、みんなの音楽的な経験値が高すぎるからだと思います。どんなにフレーズが伸び縮みしても最終的に行きつく場所を知っているから、同じゴールに到着することができる。これって日本のオケとは全然違うんですよね。

日本は、とにかく合わせる! それは無意識に民族性として現れるものだと思うんですけど、メロディーに伴奏や刻みが合わせてあげるのは当然だし、メロディーもきっと合わせやすいように吹いていることがある。僕もそれに慣れていたので、初めてベルリン・フィルでセカンドオーボエのパートを吹いたときにそうしていたら、ファーストオーボエのマイヤーに「僕に合わせようとしてるでしょ、それはやらなくていいよ」って言われたんです。セカンドはファーストに合わせるのが当たり前だと思っていたので驚きました。そうじゃなくて君も好きに吹いていいんだよっていうことだったんですけど、それがとても新鮮で。それ以降、ちょっと大げさかな?ってくらい表現してみたり、大きめに吹いてみたりすると隣で吹いている団員さんが「いいね!」と言ってくれたり、「good!」のジェスチャーをしてくれたり。嬉しいし、何より楽しかったです。

 

ー それは海外のオケだと当たり前のことなのですか?

恐らく、ベルリン・フィル独自のことだと思います。もしベルリン・フィルのメンバーが他のオケに放り込まれたら、一人だけはみ出してしまうんじゃないかな。上手すぎて、突出してしまうから。ベルリン・フィルはそういう人たちが集まっているような集団。本当に独特な、スペシャルな集団なんです。

 

荒川文吉

 

ー こういう話を知っていると、来日公演もより楽しめそうです! ドゥダメル×ベルリン・フィルの組み合わせは実際に聴かれたんですよね?(*注)

ショスタコーヴィチの交響曲第5番を聴きました。ドゥダメルは、激しい曲とか、ノリの良い曲とかが得意なイメージがあったんですけど、実際に聴いてみたら第3楽章の静かなところがとても良くて。第九でも華やかな部分だけじゃなくて、ゆったりとした楽章の色彩が豊かだったり、pp(ピアニッシモ)や歌う場面も楽しめるんじゃないかなと思いますね。

あとはお互いの相性もとても良いと思います。ベルリン・フィルは、好きにやらせてもらえる指揮者の方が合うんです。でもそう見せかけて、実はしっかり手綱を握っている指揮者だとより最高。ドゥダメルはまさにそういう指揮者です!

(*注)2020年の公演では、指揮者のグスターボ・ドゥダメルが来日し、新宿御苑での野外無料コンサートを予定していました。

 

ー ベルリン・フィルの第九はいかがでしょうか? 野外公演もありますよね。

第九はペトレンコ就任記念の野外コンサートを聴いたんですが、とても感動しました。野外だとお客さんとの一体感とか、ラフに楽しめる空気とか、コンサートホールでは味わえないような体験ができると思います。

第九は、海外では日本ほど演奏される回数が多くないとても『特別な曲』。難しいし、大作だから、やるときはオケが一致団結して気合を入れるんですよ。そして、第九はドイツ語だから、ドイツ語圏のオーケストラがやると全然違うなと思いました。ベートーヴェンはドイツのオケがやると、所属団員の人種はどうであれ、ドイツのオケの音がするんです。ドイツ語が、ただの歌詞じゃなくて自分の内面から出てきた言葉として聴こえてくるような感じがします。

日本人には、第九を何回も聴いたことがあるという人が多いと思いますが、今回はベルリン・フィルのお国芸だけじゃなくて新しい第九像も見れるはず。自分自身、何回も聴いたことのある曲でもベルリン・フィルの演奏だと聴くたびに新たな発見があって新鮮な気持ちになるんです。期待を大きく上回る演奏が楽しめると思います!

 

さらに裏話……

★コンサート終わりにビールで乾杯?!

ベルリン・フィルはフィルハーモニーという本拠地のホールで演奏することが多いのですが、そこには特別に舞台からはけたらすぐに立ち寄れる食堂があります。だからみんな大抵ポケットに3ユーロくらい用意しておいて、本番が終わったらビールに直行(笑)。休憩の間にお金を払っておいて、本番終了後すぐにみんなで乾杯します。しかも大きな本番が終わったら……とかじゃなくて毎回(笑)! 「ブンキチ、今回もビールでいいよね?」って団員さんに聞かれたり、わいわいと楽しむアットホームな時間でした。

アカデミーが終わる最後の夜には、一緒に卒業するクラリネットの子と2人で、全員にビールをおごって感謝を伝えて。とにかく毎回の本番が(本番後も!)楽しみでした。

 

★ちょっとお茶目な団員さんたち

とにかくみんな本当に優しいんです。それはリハ中もなんですけど、ずっとみんなふざけているからシビアな演奏箇所も全然怖くない! 多少なにか事故が起こったとしても、おどけながら「間違っちゃった~!」なんて言っていて。周りも「ドンマイ!うぇーい!」ってノリなんです(笑)。

それは、全員がスーパースターで、変なことが起こらないっていうお互いの信頼が大前提にあることだし、消極的になってなにかミスすることはないから、みんな寛容なんですよね。セカンドオーボエのパートはとても難しくて神経質になることが多いんですけど、どんなpp(ピアニッシモ)でも周りが良い息遣いで積極的に音楽を創っているからストレスを感じませんでした。彼らと一緒にいると、日本でずっと悩んでいたことが吹っ飛んで、音楽をもっと楽しもうと思えるようになりました。

 

★ドイツ、ベルリン・フィルに行って分かった、日本のオケの特殊性

ドイツって、まず色々な国の人が当たり前に混在して生活しているんですよね。現代、どの国でもそうだと思うんですが、日本は島国という特性上からか、やっぱり圧倒的に日本人が多くて、それはオケも同じなんです。ひとつの民族をベースに、こんなに多い割合で構成されているオケって世界的に見てもとても珍しい。だからこそ今後、世界的に注目されていくんじゃないかなと思います。

 

★とにかくベルリン・フィルはエンターテインメント!

クラシックを普段聴かない人でも、楽しい!って思えるエンターテインメント性があるのがベルリン・フィル。普段、お笑いを観たり、演劇を観たりするのと同じような感覚でふらっと行っても絶対に楽しめるはず。クラシックだって娯楽のひとつなんですよ。

コンサートホールはハードルが高いかも……と感じている人は、新宿御苑の野外コンサートでデビューするのもありだと思います。無料で気軽に楽しめるのでおすすめです!

*2020年の公演では、新宿御苑での野外無料コンサートを予定していました。



2023年11月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の4年ぶりとなる来日公演が実現します。2019年に首席指揮者・芸術監督に就任したキリル・ペトレンコとの初来日公演は、今年の最注目公演の一つ。
今回の公演では、11月14日(火)から11月26日(日)まで全国6都市(高松、名古屋、姫路、大阪、東京、川崎)で全10公演を開催します。来日最初の公演地となる香川県高松公演は57年ぶり、また兵庫県姫路では初のコンサート開催となります。数々の名盤を聴きつつ、まもなく開催される来日を楽しみにいたしましょう!

 


【ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演】

日時・会場:
【プログラムA】
11/14(火) レクザムホール(高松)
11/18(土) アクリエひめじ(姫路)
11/21(火) ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎)
11/24(金) サントリーホール(東京)
11/26(日) サントリーホール(東京)
【プログラムB】
11/16(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール(名古屋)
11/19(日) フェスティバルホール(大阪)
11/20(月) サントリーホール(東京)
11/23(木・祝) サントリーホール(東京)
11/25(土) サントリーホール(東京)

出演:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)
キリル・ペトレンコ(指揮)

曲目:【プログラムA】
モーツァルト:交響曲第29番 イ長調 K.201
ベルク:オーケストラのための3つの小品 Op.6
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98
【プログラムB】
レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ Op.132
R.シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』Op.40

 

チケット情報を見る 

 

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2023年来日公演 公式サイト 

 

 

荒川文吉(あらかわぶんきち)
Bunkichi Arakawa, Oboe

1992年、東京都出身。12歳よりオーボエを始める。東京藝術大学卒業。同大学院音楽研究科修士課程修了。修了時に大学院アカンサス音楽賞受賞。
これまでにオーボエを池田昭子、広田智之、青山聖樹、小畑善昭の各氏に師事。
公益財団法人青山財団平成25年度奨学生。
2014年、大学4年在学中に東京フィルハーモニー交響楽団に入団。現在、同楽団首席オーボエ奏者。
2013年第82回日本音楽コンクール第2位ならびに岩谷賞(聴衆賞)受賞。2014年第31回日本管打楽器コンクール第1位ならびに文部科学大臣賞、東京都知事賞受賞。
Fernand Gillet-Hugo Fox Oboe Competition 2015第2位。The Muri Competition 2019(スイス)第1位ならびに聴衆賞受賞(日本人初入賞)。
2017年度アフィニス文化財団海外研修員としてベルリンへ留学。同年9月より2年間、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「カラヤンアカデミー」に在籍。ジョナサン・ケリー氏に師事。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Berliner Philharmoniker

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、1882年に自主運営楽団として創立。以来、世界で最も優れたオーケストラの一つとして長きにわたり評価されている。
オーケストラの初公演は1882年10月17日、楽員たちによって選ばれたルートヴィヒ・フォン・ブレナーによる指揮のもと行われた。それから5年後、当時の名興行主であり、楽団設立当初よりオーケストラの運営面を支えていたヘルマン・ヴォルフの導きにより、ハンス・フォン・ビューローが初代首席指揮者に就任。彼はベルリン・フィルをドイツにおける一流オーケストラの水準へと一気に向上させた。その後を率いたのはアルトゥール・ニキシュ。1895年から1922年まで首席指揮者を務め、ブルックナー、チャイコフスキー、マーラー、シュトラウス、ラヴェル、ドビュッシーなど多岐にわたるオーケストラのレパートリーを確立した。ニキシュの逝去後、弱冠36歳のヴィルヘルム・フルトヴェングラーが首席指揮者に就任。古典派やドイツロマン派の作品を得意とすると同時に、ストラヴィンスキーやシェーンベルク、バルトーク、プロコフィエフといった近現代曲にも取り組み、レパートリーを拡大した。しかしながら、第二次世界大戦によりフルトヴェングラーは指揮者としての活動を奪われ、終戦後間もなくレオ・ボルヒャルトがその任を担うが、1945年8月、悲劇的な誤解によりアメリカ歩哨に射殺されてしまう。その後、若きルーマニア人指揮者セルジュ・チェリビダッケがオーケストラを率いることとなった。1952年、フルトヴェングラーの首席指揮者へ復職が認められ、1954年の逝去までその任を務めた。また、戦後の1949年、空襲により崩壊したベルリン・イエス・キリスト教会が再建され、当時のオーケストラの新しい本拠地として寄与したほか、音響が非常に優れていることから現在もオーケストラの活動を支えている。

1955年、ヘルベルト・フォン・カラヤンが終身首席指揮者兼芸術監督に就任。以後数十年にわたりオーケストラと確固たる関係を築き、唯一無二の音と演奏スタイルを発展させ、ベルリン・フィルの名声を世界中に轟かせた。そして1989年10月、新しい首席指揮者に任命されたクラウディオ・アバドは、あるテーマのもとに、伝統的な作品と現代作品という対照的な作曲家を組み合わせたプログラミングを考案。また、楽員による室内楽活動の奨励に加え、オペラのコンサート形式演奏会を取り入れるなど、オーケストラにさらなる特異性と多様性を与えた。
アバドの退任後はサー・サイモン・ラトルが首席指揮者兼芸術監督に就任、2002年9月から2017‐18シーズンまでその任を務めた。彼との契約は、オーケストラが若い世代で最も成功している指揮者を獲得したことに留まらず、重要かつ革新的な方針を展開するに至った。民間組織としてのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団財団が創設されたことは、最先端の組織構造を生み出し、音楽家たちの経済的生命線を確保しながら、創造力のある発展のために幅広い機会を与えている。また、同財団はメインスポンサーとしてドイツ銀行の寛大なるサポートを享受。この援助は、サー・サイモン・ラトルが舵取りをしていた時代に作り上げられた教育プログラムに1つの焦点を当てており、特に若い聴衆たちの育成に専心するなど、オーケストラの活動の域はより広がりを見せている。その献身的な取り組みに対し、ベルリン・フィルとラトルは芸術団体として初のユニセフ親善大使に任命された。

2009年には「デジタル・コンサート・ホール」を立ち上げ、インターネットを通じてベルリン・フィルのライヴ演奏会や過去の記録を定期的に配信し、世界の聴衆たちがテレビやパソコン、スマートフォンやタブレットなどを通じて演奏を楽しむ機会を提供している。2012年春には、数十年続いたザルツブルク・イースター音楽祭での最後の演奏を遂げ、2013年からバーデン=バーデンで新しい音楽祭の歴史の幕を開けるなど、新しい試みを続けている。

2014年、オーケストラの自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」を創設。オーケストラの演奏による傑出したコンサートの数々を、最高の技術と編集によって記録に留めることを目的としている。最新盤はサー・サイモン・ラトル指揮による『ベルリン・フィル アジア・ツアー2017~ライヴ・フロム・サントリーホール』で、首席指揮者として最後のアジア・ツアーにおける演奏が収められており、非常に高い評価を得ている。
2015年6月21日、ラトルの後任としてキリル・ペトレンコが楽員による多数票を得て次期首席指揮者に選出され、2019‐20年シーズンよりそのポジションに就任。

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