2018年12月04日
阪田知樹(ピアノ)~ひびクラinterview

2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクールで優勝の栄冠に輝いた阪田知樹さん。来春に行うオール・リスト・プログラムのリサイタルのお話から、ご自身の芸術観についてまで、たっぷりと伺いました。
ー 阪田さんにとって、やはりリストは特別な存在ですか。
初めてリストに出会った時「この作曲家は何だかわからないな」と思いました。共感できず、「不思議だな」という印象が大きかった。しかしそれがきっかけで熱心にリストを勉強するようになり、彼の魅力に惹かれ、高校時代は友人にリストのうんちくを語っていました。そしてやがては自分のライフワークとして、リストの作品を取り上げていきたいと思うようになったのです。そのための礎を築くために受けたのがリストコンクールでした。
ー 今回のリサイタルのプログラムはどんな思いで組まれましたか。
リストの広告塔として、僕が好きな曲や、是非皆さんに知って欲しい曲を取り入れました。1曲目に演奏する《バラード1番》は気品があって、リサイタルの最初にぴったりだと思いましたし、僕がとても好きな曲です。それから、ラ・カンパネラのメロディを使ってリストが作曲した4曲の中から、2曲を演奏します。特にこの曲は、リストの曲の中でもトップクラスに難しい曲で、技巧的に凄い動きをします。リストの作品ならではの、音楽の視覚的な楽しみを是非会場で見て頂きたいですね。リストの曲は華やかで難しそうに聞こえるんですが、難しいながらもすごく手にはまる。馴染みやすいんですよ。テクニックの面で新たな可能性を開拓した功績が、今でも彼の作品が演奏されている所以なのかなと思います。
ー 阪田さんはSPレコード録音時代(19世紀末~20世紀中頃)のピアニストの演奏をよくお聴きになると伺いました。その魅力を教えてください。
例えばショパンは「彼は自身の作品を弾くたびに違った演奏をする」と言われたほど、常に即興的な演奏をしていました。つまり、楽譜は作曲家自身の着想を書き留めたものでありながら「宝の在り処が記されていない宝島の地図」のように、完全ではないのです。我々が読み解き、音を紡いでいった時に初めて完成する。ラフマニノフもSP時代の人ですが、彼の自作自演は決して楽譜通りではありません。楽譜だけでは作曲者の価値観は正直わからないのです。SP時代の演奏家たちは自身が曲を構築する能力を持っていますので、彼らの演奏はある種の即興性と説得力があると思い、僕は好んで聴いています。
ー 21世紀のピアニスト像とはどんなものだと思いますか。
「音楽」は、想像されている以上に刻一刻と変わるものです。空間、楽器、奏者、聴き手、それら全てが「音楽」を作っていくし、変えていく。そういった意味で、新たな時代を迎えても、一度も古くならないというのがクラシック音楽の魅力だと思います。ピアニストは、技術があってこそ成り立つものですが、もっと何というか、(精霊と交信するといわれる)シャーマンのような、特別な使命感と精神性を持って取り組むものです。ですからピアニストがAIに取って代わられることは無いと思います。
ー 最後になりますが、阪田さんは「芸術」とは何だとお考えですか。
経験に基づく、或いは空想に基づく「自身の内面の投影」だと思います。また、「言葉で表せないもの」です。言葉で表せたら音楽はいらないですし、文学も同じだと思います。ちょうど、レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』からインスピレーションを得た曲を作曲する予定で、何度もこの作品を読んでいます。ストーリーを音楽で語りたいのではなく、作品から受けた印象を投影したような楽曲を書きたいのです。不思議ですよね、本を読んでいても、言葉で表せないものが伝わってきます。独特の感触、香り、色合い…。『オリバーツイスト』『ドリアングレイの肖像』『嵐が丘』などイギリス文学が特に好きです。
往年の巨匠のように、演奏と作曲、そして文学の境界を超えて想像力を無限に押し広げる阪田さんの飽くなき探究心に、新時代のピアニストの姿を垣間見た気がします。
文/中野春花
ひびクラEditor’s eye
凛とした佇まいで丁寧に言葉を紡ぐ彼は、ひとつひとつの言葉に確かな意思を感じる、まるで学者のような達観したレベルの青年だった。
話をしているだけなのにリサイタルを聴いているような、そんな風に惹きこまれてしまうのは、彼の豊かな語彙による説得力がゆえだろう。就職活動をしたら、どんな企業の人事担当者でもノックアウトされる…という感じ。
『ノッティングヒルの恋人』が好きというロマンチックな一面や、たまに見せるあどけない笑顔に、彼のさらなる魅力が垣間見えたインタビューだった。
ジャズもよく聴くという彼、来春初共演となる中野翔太&松永貴志との ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー<3台お楽しみヴァージョン>で、どのような一面を見せてくれるのか楽しみだ。
阪田 知樹(ピアノ)
Tomoki Sakata, Piano
2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクール(ハンガリー・ブダペスト)第1位、併せて6つの特別賞受賞。83年の伝統を誇る当コンクール史上、アジア人男性ピアニスト初優勝の快挙。「まるで天使が弾いているかのようだ!」-Leslie Howard-と審査員満場一致、圧倒的優勝を飾る。
19歳時に、第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールにて最年少入賞。「清澄なタッチ、優美な語り口の完全無欠な演奏」-Cincinnati Enquirer-と注目を集める。
プラハ・ミュージックパフォーマンスに招かれ巨匠イヴァン・モラヴェッツ氏より高い評価を受けイヴァン・モラヴェッツ賞、アジア国際音楽コンクール第1位及び全部門中最優秀賞、第35回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、及び聴衆賞等5つの特別賞、クリーヴランド国際ピアノコンクールにてモーツァルト演奏における特別賞受賞。
アレクサンドル・ラザレフ、ヴラディーミル・ヴァ―レック、レナード・スラットキン、ハワード・グリフィス、スタニスラフ・コチャノフスキー、ランダール・クレイグ・フライシャ、ゲルゲイ・ケッシェヤーク、バラーシュ・コチャール、アンドレイ・フェーヘル、矢崎彦太郎他諸氏指揮のもと、シュターツカペレ・ハレ、フォートワース交響楽団、ヤングスタウン交響楽団、ベーカーズフィールド交響楽団、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団、ハンガリー国立歌劇場管弦楽団、ハンガリー放送交響楽団、チェコ国立交響楽団、モロッコ・フィルハーモニー、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団他と共演。
ブレンターノ四重奏団、原田幸一郎、池田菊衛、磯村和英、毛利伯郎他諸氏と共演、室内楽奏者としても活躍。
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