2019年02月07日

中舘壮志(クラリネット)~ひびクラinterview

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新日本フィルハーモニー交響楽団副首席奏者として活躍しながら、2018年に開催された第87回日本音楽コンクールにて第1位、2016年開催の第33回日本管打楽器コンクール第1位と併せて、管楽器奏者が目指す日本最高峰の2大タイトルを制覇した、今もっともその動向が注目されているクラリネット奏者、中舘壮志(なかだて そうし)さんにお話を伺いました。

 

ー 新日本フィルに入団されて何年目になりましたか?

今2年目に入ったところで、まだまだ精一杯で本当に大変です…。

 

ー 入ってみてじわじわ実感されているのですね。

そうですね。数回のリハーサルしかないので、そこに対する集中力は凄まじいです。 あと、オーケストラは5日間働いて2日休みといった決まったスケジュールではないので、本番やリハーサルの間にソロの本番とか公開レッスンとか他の仕事が色々入って、2週間休みなしとか平気であるんです。それでもまだやったことのない曲が次から次へと来るので、もう毎日毎日追われまくっています(笑)

中舘壮志5

忙しい毎日をともに過ごしている楽器ケース。常に2本持ちで楽譜も入ると5-6㎏はあるそう。肩凝りと満員電車が悩みの種。

 

ー 聞いているだけでも大変そうです…。そもそもクラリネットをはじめたきっかけは何だったのですか?

中学生の頃に吹奏楽部ではじめました。ピアノを元々習っていた延長で音楽をすごいやりたいなと思って。学校の部室に行って「あっいいな」って思ったのがフルートだったんですが、構えた時に指が全然届かなくて。それでクラリネットになりました。 高校は音楽科がある学校だったので、クラリネット専門の先生に個人レッスンを受けるようになったりして、個人での練習時間を充分に確保したいと思い、途中で辞めてソロに専念しました。

 

ー オーケストラの経験は大学に入ってからですか?

大学生の頃はオーケストラの経験はほとんどなかったです。もともとオーケストラの授業が少なくて、学生の頃やった曲は全部思い出せるくらいしかやってないです。卒業してからプロのオーケストラにエキストラで行った時に初めて、オーケストラで吹くことの難しさを感じました。学生の頃も難しいとは思いましたけど、プロはリハーサルの回数が限られているので切実でしたね。

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ー プロのオーケストラに入団して、音楽に対する意識は変わりましたか?

そうですね。曲にもよりますが、オーケストラのほうがソロより遥かに音の数が少ないので、その日リハーサルに行って譜面をぱって見ても吹けるくらいなんです。でもやっぱりオーケストラはスケールが大きいので、その作曲家の気合がすごく伝わってくるっていうのもあって、スコア(すべてのパートがまとめて書かれている楽譜)を確認したり作曲家のことをよく知る事前の準備がとても大切だと感じています。音が少ない分、ここっていうタイミングで音を出さなきゃいけないので、一音一音を大切にする気持ちはオーケストラに入ってさらに強くなりましたね。

 

ー 聴衆(お客様)を意識することも増えたのではないでしょうか。

ソロの時よりも責任が重大な分、お客様に届ける気持ちとか人に聴いてもらいたいっていう思いは強くなったし常に持っていますね。オーケストラにいる人は普段から人前で演奏する機会が圧倒的に多いから、人に聴かせるっていう意識が高いんです。仲間内で事前におさらい会とかやるんですけど、普段からプロのオーケストラや吹奏楽団で演奏活動をされている方は、様々な場で活躍していて練習する暇もないくらい忙しいはずなのに、どんな時でも聴いてる人を満足させようっていう意識がすごく伝わる演奏をするんです。そこはオーケストラに入って本当に勉強になったし鍛えられた部分ですね。

 

ー 今回3度目の挑戦にして日本音楽コンクールの頂点を極めたのには、そういった経験も生かされたのでしょうね。

もちろんそう思っています。だから岩谷賞(聴衆賞)をいただいたのは嬉しかったですね。審査員が点数として出した順位(第1位)と、お客様が点数とか関係なく聴いていいなと思った人を選ぶ聴衆賞と、どちらからも評価を受けたっていうのは本望です。

中舘壮志

日本音楽コンクールのクラリネット部門は3年に1度の開催。大学3年生から挑戦し続け3度目でついに頂点を掴み取った。

 

ー オーケストラ団員として活躍する一方で、今回のようにソロとしてコンクールに挑戦し続けるのには、どういった思いがあるのでしょうか。

普段の仕事はオーケストラなので、ソロとは全然違います。それでもお話した通りで、ソロでやっていることがオーケストラに役に立つこともあるし、その逆もあるんですね。緊張感のある場に身を置くことは常に必要なことだと思っているので、ソロとして心身ともに受けられるうちは受けたいなと。受けない理由のほうがないかなと思っています。

 

ー 本選ではコープランドの協奏曲を選んでいらっしゃいましたね。

本選は2択で、ニールセンかコープランドのどちらかでした。一応一通り楽譜を見ながらどっちも何回かずつ聴いてみたんですけど、コープランドのほうがすんなりと頭に音が入ってきて。

 

ー 3月に開催される受賞者発表演奏会での演奏が楽しみです。

コープランドの協奏曲は、少しジャズの要素が入っていてコンクールにはあまり向いてない曲だと思うんです。それをジャズ奏者じゃない自分が踏み込みすぎちゃうと審査が混乱しちゃうかなと、コンクールではちょっと守りに入った部分もありました。今回はコンサートなので、もう少し踏み込んだジャジーな表現ができたら良いなと思っています。

 

ー 今感じている課題などはありますか?

テクニック的なことで言えばきりがないんですけど、今一番感じているのはオーケストラの中で自分自身の音をどう表現していくかということですね。ソロとは違って、オーケストラでは指揮者やお客様との距離がどうしてもあったり、他の楽器の音ももちろんあるので、自分の音を的確に出していかないと埋もれてしまったりして。あとはお客様に満足してもらえる演奏をすることですね。難しいことですが常に考えています。

 

ー 今後取り組んでみたい作曲家や時代などはありますか?

今は若いうちにできる曲をいっぱいやりたいと思っています。技巧的なものもですが、あまりみんなが聴いたことないような曲とか。今までメジャーな曲をあまりやっていなくて、モーツァルトもやりたいとは思いつつ、まだちょっと早いかなとも思っていて…。世間的に見たら僕はまだフレッシュなプレイヤーだと思うので、みんなが聴いたことのないような曲を発掘して、聴いてもらえたらなと思っています。

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ー たしかに現代音楽とか得意そうなイメージですね。

全然苦手なんですけどね(笑)現代曲は今までコンクールのためにやってきましたが、これからは自分の新しい一面を見せる意味でも、自発的にどんどんトライしていきたいですね。

 

ー どんな曲でも新たな発見をさせてくれる演奏家っていますからね。

分かります。オーケストラで演奏している時、指揮者とソリストの絡みとか見ながら、その作品をソリストの演奏次第でもっと好きになる瞬間があるんですよね。そう思わせてくれる演奏家は本当に素晴らしいなと思います。お!っと思わせてくれるんですよね。

 

ー 中館さんがそういう演奏家になってくださると期待しています!

頑張ります(笑)

 

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ひびクラEditor’s eye

日本的な奥ゆかしさを感じさせつつ、その内に秘めたる闘志を抱く剛毅な人柄。

まるで武士のような存在感の彼は、実直で素朴な言葉のやり取りで余韻を残すのがとても上手い。もっともっと話を聞いてみたいと思わせてくれる。

そんな彼が演奏するジャジーなコープランドの協奏曲が、会場にどんな余韻を残すのか…ぜひ会場で体感してみたい。

中舘壮志(クラリネット)
NAKADATE Soushi, Clarinet

東京藝術大学音楽学部卒業。第84回日本音楽コンクール入選。第33回日本管打楽器コンクール第1位、文部科学大臣賞、東京都知事賞、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団特別賞。第87回日本音楽コンクールクラリネット部門第1位。あわせて、瀨木賞、E.ナカミチ賞、岩谷賞(聴衆賞)受賞。広上淳一、高関健各氏の指揮のもと、藝大フィルハーモニア、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と共演のほか、渡邊一正氏指揮で、東京フィルハーモニー交響楽団とも共演。これまでに、クラリネットを有馬理絵、月村淳、栄村香、山本正治、伊藤圭の各氏に師事。新日本フィルハーモニー交響楽団副首席クラリネット奏者。茨城県出身。

第87回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会
第87回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会
公演日 : 2019/3/7(木) 18:30開演
出演者 : 井上渚(作曲部門)、森野美咲(声楽部門)、小井土文哉(ピアノ部門)、荒井里桜(バイオリン部門)、中舘壮志(クラリネット部門)、三村梨紗(トランペット部門)、渡邊一正(指揮)、東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
場所 : 東京オペラシティ コンサートホール
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