2019年03月25日

神奈川フィル×太田弦(指揮)~ひびクラinterview<2>

前回に続き、若手指揮者のホープ、太田弦(おおたげん)さんにインタビュー。知っているようで意外と知らない指揮者の世界。そもそも指揮者ってどうやってなるの?という素朴な疑問から今後の展望まで語っていただきました。

 

《前回を読む》

 

ー 指揮者の方って普段どんな生活をされているのですか?

起きたい時間に起きて、身支度をして、大体の場合はそのままスコアを読んで研究をしています。あとは、スコアの中の間違っている箇所のリストを作ったり。夕方になると、運動不足だなと思って30分くらいお散歩に出ます。それがわりと最近の型ですね。

ー やはり音楽漬けな感じなのですね…。

いえいえもちろん遊んだりもしますよ。小さいころからサッカーが大好きで、特にやるのが好きなんです。大学に入ってからなかなか機会がなかったのですが、先日お誘いいただいて、久しぶりに今度試合ができるんです!とっても嬉しいですね。本当は音楽よりもサッカー選手になるほうが才能があったかもしれないと思っています(笑)。

ー 指揮者になろうと思ったきっかけというのは?

もともとチェロをやっていたんです。父がコントラバス、母がピアノ、姉2人と弟がヴァイオリンを弾く家庭で育って、音楽が身近にありました。でも小学生ぐらいの早い段階で、楽器の上手い姉たちを見て、僕はチェリストにはなれないなと思ったんです。そして中学生の頃の進路希望調査で、じゃあ何になろうって考えた時に、指揮者が浮かびました。

ー 指揮者って…一体どうやったらなれるのでしょうか?

僕も分かりませんでした(笑)。中学生に打てる手はあまりなかったんですけど、とりあえず、指揮者に関する本、指揮者が書いた本を大量に読み漁りました。そこで、指揮者になるまで何をやったか、何が必要だったのかということを学びました。今思うと、多少時代にそぐわない内容もあったんですけど、すごく勉強になりましたね。

まずどの本にも「オーケストラに入っておくと良い」と書かれていたので、高校の時にはオーケストラ部に入ってチェロを続けました。あとは、「作曲を勉強しなさい」とあったので、やってみようと。両親が大学の教育学部出身だったので、家に初歩的な理論書がたくさんあって、それを読みながら独学で勉強し始めました。いわゆる「和声と対位法」です。それをしばらくやって、これ以上は習わないといけない段階に来て親に相談したら、地元(北海道)に良い先生がいると。その先生は二橋潤一さんという方で、メシアンの弟子なんです。二橋先生には、高校1年生から師事して作曲を勉強しました。

ー そこから東京藝術大学の指揮科に進んだのですね、やはり狭き門なのでしょうか。

定員は2人です。前の年まで受験生自体2、3人だったのですが、僕の年だけなぜか11人いて(笑)。落ちたな…と思っていたら運良く合格することができました。今でも採点ミスだったんじゃないかなって思っているんですけど(笑)。

指揮科の入試は3次試験まであって、最初は確か聴音(耳で聴いた旋律や和音を、楽譜に書き記す)だったと思います。ただでさえ難しい藝大の聴音とは違う、指揮科専用の問題があって、とても難しかったのを覚えています。間違い探しもありましたね。配られた譜面の間違っている箇所にチェックを入れていくというもの。もちろん実技もありました。1次試験はピアノを相手に指揮、2次試験は弦楽オーケストラを指揮するというものでした。あと、3次試験で和声(和音の進行に関する設問)もあったので、これは作曲で学んだことを活かせましたね。

太田弦

ー 実際の授業はどのような感じだったのですか?

小さい頃から地元・札幌交響楽団の演奏を聴いていたこともあって、そこで指揮を振っていた尾高忠明さんと高関健さんに憧れていたんですが、お二方には、大学院を含めて6年間習うことができました。これはとても幸せなことでしたね。

その月2、3回のレッスンでは、オーケストラの音をピアノ2台の4人8手で演奏してもらいます。指揮のレッスン伴奏のプロフェッショナル2人と学生2人。この形でオーケストラの曲は大体演奏することができるんです。そして1年の最後、1月にある学年末試験でのみ藝大フィルハーモニア管弦楽団を指揮することができると。実際にオーケストラを指揮できるのは、年に1回、基本的にこの時だけなんですよ。

ー 大学以外でもレッスンをたくさん受けていますね。

山田和樹さんのレッスンを受けた時が面白かったですね。「君、もう完璧だね!色々なオケで振って経験を積みなさい。心と頭と体のバランスが取れている」って言われて。この3つのバランスが指揮者、音楽家にとっては大切だって、あまりそういう風に考えたことがなかったので、なるほど確かにそうだなってすごく納得しました。

ー 学生時代は、今回の演奏会で取り上げるジョン・ケージのような前衛的な音楽も勉強されたのでしょうか?

現代音楽に関しては、作曲科の試演会など、試験で書いた曲を演奏する機会があって、そこで色々な曲をやりましたね。小節線のない曲なんかも、どうやって振ろう…って悩みながらもなんとかやり方を考えました。

だから苦手意識はあまりなくて、面白いと感じることの方が多いですね。それこそ、師匠の高関先生がよく現代音楽に取り組まれているのでその影響もありますし、僕自身、作曲を勉強していたことも大きかったんだと思います。

ー 作曲が指揮にも活かされているのですね。

作曲は小さいものを大きくしていく作業で、指揮者は大きいものを小さくして自分の理解できるところに落としていくもの。どうやって書いたかが分かれば理解するのがちょっと楽なんです。たまに、これどうやって書いたんだろうって全く理解できないものもあるんですけどね(笑)。

太田弦

ー 今後の展望を教えてください。

そもそも僕は30歳ぐらいでの指揮者デビューをもくろんでいたので、本当ならば今頃ヨーロッパにいる予定だったんです(笑)。でもそうならなかったこともあってか、今でもヨーロッパに行きたい気持ちがすごく強い。2019年4月から大阪交響楽団の正指揮者としての活動が始まるのですが、オケには、3ヶ月から半年ぐらいなら海外に行ってもいいよという了承をもらっているんです。なので、3年間のうちどこかで行けたらいいなと思っているんですけど。ただそれには、覚悟を決めて「ここのスケジュールを丸々空けます」と言わないとならないので、さすがにまだ踏ん切りがついていなくて(笑)。

ー ヨーロッパで実際に習ってみたい先生はいますか?

正直、あまりいなくて…。ヨーロッパは日本と違って、第一線で指揮してる人ではなく、学校の指揮の先生が教えているんです。スター指揮者と学校の先生は完全に別。活躍している人が学校で教えてくれるという仕組みは日本だけだと思うので、この国は指揮者を目指す人にとってはとても良い環境なんですよね。どの先生も、多忙なスケジュールの合間を縫って熱心に教えてくださっています。僕だけではなく、日本で若い指揮者が多く出てきているのは、その成果かなと思いますね。

ー その中でもトップランナーの太田さん、これからの活躍も期待しています!

ありがとうございます!

 

太田 弦(指揮)
Gen Ohta, conductor

1994年北海道札幌市に生まれる。幼少の頃より、チェロ、ピアノを学ぶ。
東京芸術大学音楽学部指揮科を首席で卒業。学内にて安宅賞、同声会賞、若杉弘メモリアル基金賞を受賞。同大学院音楽研究科指揮専攻修士課程を卒業。
2015年、第17回東京国際音楽コンクール〈指揮〉で2位ならびに聴衆賞を受賞。
指揮を尾高忠明、高関健の両氏、作曲を二橋潤一氏に師事。山田和樹、パーヴォ・ヤルヴィ、ダグラス・ボストック、ペーター・チャバ、ジョルト・ナジ、ラスロ・ティハニの各氏のレッスンを受講する。

これまでに読売日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、群馬交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団などを指揮、今後さらなる活躍が期待される若手指揮者筆頭。

2019年4月より大阪交響楽団の正指揮者に就任予定。

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神奈川フィル 県民ホール名曲シリーズ 「アメリカ」~新世界で生まれ育ち、移りゆく音楽達~
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公演日 : 2019/4/20(土) 15:00開演
出演者 : 太田弦(指揮)、阪田知樹(ピアノ)、佐藤晴真(チェロ)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)
場所 : 神奈川県民ホール 大ホール
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神奈川フィルハーモニー管弦楽団 演奏会情報
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