2019年04月25日
朴 葵姫(パク・キュヒ)~ひびクラinterview

第15回イマジン七夕スペシャル2019『ロマンティック4大協奏曲』で、ホアキン・ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」を演奏するギタリストの朴葵姫(パク・キュヒ)さんにインタビュー。クラシックギター界の若手で今最も人気のある朴さん。ギターのこと、音楽のこと、そして休日の過ごし方や趣味のことまで、たっぷりとお話しいただきました。
ー そもそもクラシックギターを始めたきっかけというのは?
3歳の時に、母に連れられてギター教室に行ったんです。母はビートルズを弾きたかったらしいのですが、その教室ではフォークギターではなくてクラシックギターしか教えていなかった。そこでクラシックギターというものを初めて知り、私は子ども用のギターを勧められて、母と一緒にレッスンを受けるようになりました。
5歳の時に日本から韓国に引っ越すタイミングで、母はギターをやめてしまったんですが、私はもう夢中になっていたので、どうにか続けさせてほしいとお願いしたんです。それこそ小学1、2年生の時点で、将来はプロのギタリストになるって決めていたぐらいですから。
ー すごいですね。初志貫徹、かっこいい!
正直、他の職業についてほとんど知らなかったということもあり(笑)、自分の中でギタリストしか選択肢がなかったんです。
ー 数ある楽器の中でも、クラシックギターは小柄な女性にとっては大きくて大変じゃないかなと。
手も小さい方なのでたしかに大変ではあるんですけど、小学5年生くらいの早い段階からスタンダードサイズのギターを弾いていたので、慣れるのは早かったし、逆にそれより小さいと弾きにくいぐらい。
あと、指が柔らかくてかなり伸びるので、フレット上の横の動きは問題ないんですが、弦間を大きく移動する縦の動きが大変。遠くの弦をおさえる時に、指が届かないので手のフォームを少し崩していて。そうするとミスが起きる可能性が高くなってしまうんです。
もうちょっと指が長かったら、もっと自在に弾けるんじゃないかっていうモヤモヤがいつもあります。生まれ変わって手が大きい人の感覚を味わってみたいですね(笑)。
ー 今回演奏する「アランフェス協奏曲」はとても技巧的で難易度の高い曲かと思います。
本当にその通りで…。ギターがよく聴こえるところに限って難しいんです。ホアキン・ロドリーゴはピアニストなので、ピアノの感覚でギター譜を書いていて、音も多く音域も広く、とにかく演奏が大変。ピアノのようにペダルがないので、音が切れないように弾くのがとても難しい。なるべくレガートさせながらポジション移動をするんです。
ー そのために工夫していることはありますか?
とにかく部分練習をたくさんすることですね。できない部分から徐々に地道に詰めていくっていう。歳を重ねて音楽的なアイデアがすごくはっきりしてきたので、自然と音楽全体を見られるようになったんです。だから、このような練習はとても効果的で。他にも技術的に練習するだけでなく、フレーズごとに歌う練習もしています。本来繰り返しの練習はあまり指によくないのですが・・・。不安を打ち消すためにはどうしてもそうなってしまいます。
ー オーケストラとの共演というのは、ソロでの演奏とは違う大変さがあるのでしょうか?
ギタリストがオーケストラと共演する機会自体があまりないので、正直不安ですし、緊張もします。ソロの場合は、何か起きたとしてもその後にリカバリーできるのでそこまで不安はないのですが、オケとの共演ではそうはいかない。だから、常に音楽に乗って、落ちないように練習しています。
フルオーケストラの100人近い人数にも圧倒されますし、かたやギターは音量が小さいためアンプを使うんですけど、ホールや演奏会ごとの設定にも気を使います。
ー ソロやカルテットもやっている中で、オケとの共演では音楽的にも、気持ち的にも違いそうですね。
ソロだったら自分の演奏だけに集中できますが、カルテットの場合は弾いてるパートによってバランスを考えなくてはいけないので、他の人の音を聴きながらというのが基本になります。ただ、オケとの共演では少し違っていて、ソリストが周りを引っ張るような気持ちでいないと自分の音楽を主張できない。周りを聴きながらも、自己主張をすることがとても大切なんです。
私の場合は性格的なところもあって、あまり引っ張っていくような感じにならず苦労することがあります。どうしても合わせてしまうんです。指揮者が私に合わせたり、私も指揮者に合わせたりしていくと、全体の演奏がどんどん遅れて重くなる。そうならないために、「ここはオケのみなさんにはテンポ通りに演奏してもらって、私がそれについて行きます」というのを事前に打ち合わせておくこともあります。
ー どっちも聴き合ってしまうと音楽的にも丸くなってしまいがち。ソリストとしての役割って本当に難しそうですよね。
振り返ると最初の頃は、どの瞬間でオケを聴いたら良いの? いつ指揮を見るの? 握手のタイミングは? みたいな疑問だらけ。自分で経験してたくさんのことを学んできました。
オケとの共演を始めて今年で8年目。年々自分の演奏に自信が持てるようになってきてはいますが、それでも不安やプレッシャーはあるので、終わった後はいつも自分で自分を褒めてあげるんです(笑)。「この緊張感をよく乗り切った!偉い!頑張った!」って(笑)。
ー ひとつひとつ大きな経験を積んでいるのですね。今後、さらに挑戦してみたいことはありますか?
5月からスペインに住むので、フラメンコギターに挑戦してみたいと思っています。クラシックギターと構造は同じなんですけど、もう少し力強くてスケールが速いので、これを身につけたらクラシックにも生きるなと。
ー ラテンの影響を受けると、音楽も性格も変わってきそうです。
もっと自由になれるのかも(笑)。やっぱりまだ、思いっきりハジけることができないというか・・・。「アランフェス協奏曲」にしても、私が揺らしたらオケのアンサンブルが狂うんじゃないかって躊躇しちゃうときがよくある。でも、南米の演奏家の方などは、本当に思うがままに、自由にやっていたりしますよね。そういう部分での大胆さや余裕が欲しいです。
音楽を通じて、色々な国に行って、その文化に触れられるのは本当にすばらしいことだと思っています。多くの人との出会いもかけがえのないもの。演奏のプレッシャーや怖さがありながらも、どこかで癒されて、また頑張って、という理想的なサイクルになっているんです。
楽器ケースを飾る、今まで訪れた世界中の街のシールたち。
ー 素晴らしいですね。旅先での素敵なお写真も拝見しました。
写真を撮るのもひとつの息抜き。全部手動で操作できるフィルムカメラが好きで、最近は、1920年代くらいに流行っていたローライフレックスという二眼レフカメラを使っています。このフィルムはとても味があって、モノクロがきれい。他にも、ニコンの一眼レフやiPhoneで撮ることもあります。
朴さん撮影の一枚。イタリアのヴェネツィアにて。(by iPhone)
ー 他にもリラックス方法はありますか?
お休みの日の昼下がりにビールを飲むのが大好き(笑)。コンサートの翌日は、練習しない”完全オフ日”と決めているので、お昼くらいに起きて、映画を流し見しながらビールを飲む。至福の時間ですね。最高にリラックスできます。
ー 普段、クラシック以外の音楽も聴きますか?
アコギ1本やピアノ1台で歌っているような、個性的でちょっとユルめなインディーズの音楽が好きなんですよ。日本、韓国、欧米問わず。ナチュラルにささやくような歌だと、ボサノヴァも好き。ランダム再生してくれる音楽アプリでオススメされた曲をひたすら聴いています。
ー 朴さんご自身もいつか歌い出すんじゃないかなって。
ギターを持っていると、「弾きながら歌うの?」ってよく聞かれます。でも歌はあまり得意じゃないので(笑)・・・ 今まで通りクラシックで頑張っていきたいですね。他の楽器や歌手とのコラボもしてみたい。
ー 最新アルバム『Harmonia -ハルモニア-』では今までより力が抜けて、柔らかい音色だなって感じました。
前作まではホール録音でしたが、今回はスタジオレコーディングということもあって音の聴こえ方も違うかもしれませんね。なにより、年齢や経験を重ねて良い意味で力が抜けてきたのかもしれません。それこそデビュー当初は「頑張って弾く!」っていう感じでしたから(笑)。おしゃれなアルバムになったので、カフェで聴くのにもぴったりだと思います。特に若い女性にリラックスして聴いてもらいたい。
そして、7月に演奏する「アランフェス協奏曲」では、このCDとまた違った一面を聴いていただけると思いますので、楽しみにしていてくださいね。
朴 葵姫(パク・キュヒ)
Kyuhee Park, Guitar
日本と韓国で育つ。3歳で横浜にてギターを始める。東京音楽大学を経て、2014年ウィーン国立音楽大学首席卒業。16年スペインのアリカンテ・クラシックギターマスターコース首席卒業。05年学生時に小澤征爾指揮オペラ公演へ参加。12年アルハンブラ国際ギターコンクール第1位及び聴衆賞、他多くの主要国際ギターコンクールで優勝・受賞。N響、都響、読響はじめ主要オーケストラと共演。アメリカ、ロシア、ポーランド他、欧米及びアジアのギターフェスティバルへ頻繁に招かれている。会場中を惹きつける音楽性と、とりわけ美しいトレモロ奏法の技術の高さは各地で絶賛されている。

公演日 : | 2019/ 7/ 7(日)15:30開演 |
出演者 : | 渡辺克也(オーボエ)、正戸里佳(ヴァイオリン)、朴 葵姫(ギター)、イリヤ・ラシュコフスキー(ピアノ)、井﨑正浩(指揮)、東京交響楽団 |
場所 : | サントリーホール 大ホール |
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