2020年02月18日

亀井聖矢(ピアノ)第88回日本音楽コンクール・ピアノ部門第1位/2019年度ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ ~ひびクラinterview

第88回日本音楽コンクール・ピアノ部門、2019年度ピティナ・ピアノコンペティション特級で17歳にして1位を獲得したピアニスト亀井聖矢さんにインタビュー。18歳になった今、音楽とどう向き合っているのか。飛び入学特待生として入学した桐朋学園大学での生活についてもお伺いしました。

 

ー ピアノを4歳から始められたんですよね。自分でやりたいと言ったんですか?

始めた頃のことは全然覚えていないんです。物心ついたときにはすでにピアノを触っていて。外で遊ぶよりも鍵盤のおもちゃを触ることが好きな子どもだったので、母が近所のピアノ教室に通わせてくれました。ずっと続けていて練習が嫌だと思ったことはないし、僕にとっては当たり前に生活の中にあるものですね。今も辛いと思うことがなく、毎日楽しくピアノを弾いています!

 

ー 他に習い事とかはしていましたか?

小学1年生からサッカーをやっていました。6年間学校のチームにいて、小学4年生までは市のチームにもいたんですけど、ピアノに専念する時間が欲しいなと思ってやめました。ピアノかサッカーか特にどちらをやるか迷うこともなく、ピアノを選んだんです。その頃から「ピアニストになりたい」という気持ちがあって。

 

ー 音楽科の高校に進学する時も迷うことなく?

音楽をやっていない父や祖父は普通科の高校に進学してちゃんと勉強する一般的な道の方が確実だと言っていたんですけど、自分はどうしても音楽科に行きたくてピアノを勉強する道を選びました。そこが音楽に本気で取り組むにあたっての分岐点でした。中学校まではちょっとピアノが弾けるだけで特別だったのが、高校に入ったらそれが当たり前で。ちゃんとやらなきゃっていう気持ちになりましたね。

亀井聖矢

 

ー 高校生活は今までとは違うものでしたか?

高校というよりは大学に入って大きく変わったなと思います。愛知県立明和高等学校に2年生まで通って、その後に高校3年生の歳で桐朋学園大学の1年生に飛び級入学しました。過去にこのような制度はなかったので僕が1人目になるのですが、来て良かったと心から思いますね。

 

ー 不安などはありませんでしたか?

前例がないということ、いきなり東京で一人暮らしをするということ、高校の仲間と最後の1年を共に過ごせないことなど挙げればきりがないくらい不安はたくさんありましたが…それよりも受験に合格したときには、最高の環境で音楽を学べることにわくわくしていました。実際来てみて、良かったなと何度も感じます。

亀井聖矢

 

ー 東京に出てきて数か月で、まずピティナ・ピアノコンペティション特級を受けて1位を獲られたんですね。

そうです。4月は生活に慣れずばたばたしていてあまり練習もできずにいたのですが、5月に入ってから予選まで1か月しかないことに焦り始めて練習しました。その頃には大分ペースを掴めていたので集中できましたね。周りの友達も朝から学校に行って必至に練習していて刺激を受けましたし、先生からは良いレッスンを受けることができて…この夏は今までで一番練習したんじゃないかなというくらい。

 

ー ピアノの方は練習量が半端なく多いですよね。

でも僕は元々そんなに長い時間やるタイプじゃなくて(笑)。みんな8~10時間とかやりますけど、僕は多くても休みの日に6時間とか。普段は2時間くらいですかね。というのも、だらだらピアノを触ってそれが癖になるのが嫌で。集中して研ぎ澄まされた状態で練習したいんです。何時間もやれば良いってものでもないので、ピアノに触っている時間が人より少ない分、ベッドの中にいても常に音楽のことを考えますし、楽譜をたくさん読んだり音源を聴いたり、考える時間を大切にしています。

 

ー 効率の良い練習。無駄な時間を作らないというのは大切なことですね。その中でも、ひと夏にピティナと日本音楽コンクール(日本音コン)を両方受けるということは大変ではなかったですか?

もともと今年ピティナは特級を受けようと決めていましたし、日本音コンもやっと年齢制限の17歳になったので絶対受けたいと思っていたんです。コンクールは、前の年に3次や本選まで行っても次の年に受けてみたら1次で落ちるなんてことはよくあるので、獲れるときに獲らなきゃと。運も実力も審査員との相性も色々な要素が複雑に関わってくるので難しいですよね。今回はたまたまコンディションも良く、うまく波に乗れたんじゃないかなと思います。練習しながら、必ず1位を獲りたいという気持ちはもちろんありました。

 

ー 両方のコンクールで同時に1位を獲る人というのは今までいなかったのでは…?

初めてだと思います。小さい頃からコンクールは沢山受けてきましたが、今回は特殊な体験でした。というのも、学生コンクールだったらさらに上を目指していくということができたり、ピティナも下の級だったら次こそ頑張ろうと思えるのですが、今回受けたふたつのコンクールは日本の最高峰なので、もう後がない。ここで決めなくちゃいけない、という気持ちだったので身が引き締まりました。そして、運が良いことにどちらのコンクールも本選で4人中3人目だったんです。会場が適度にあったまっていて、休憩が終わった後のフレッシュな状態で聴いてもらえるタイミングだったので最高でした。でも、もう一度同じコンクールをやれって言われたらやりたくないですけどね(笑)。

亀井聖矢

 

ー 両コンクールの本選の曲をサン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番ヘ長調「エジプト風」にしたというのは?

協奏曲なので聴き映えのする華やかなものが良いなと考えていました。なかなか誰も選ばないと思うんですけど、最初に聴いた時に良い曲だなと思ってこれを弾きたいなと、自分が惹かれた曲です。美しい場面もあり、表題の通りエジプト風な部分もあり、第三楽章で派手に終わる。色んな表情を見せられる曲なので色々な自分を聴かせられるのではないかと思いました。

 

ー 音楽性や音色を広げるために参考にしたこと、工夫したことなどはありますか?

タッチの研究を一番しました。たった1センチの深さの鍵盤をどういうスピードで押さえるのか、指の使う位置、角度、身体のどこから持って行くのかなど、繊細な違いで音は大きく変化するので、先生にそういう引き出しをたくさん教えていただきました。自分が出したい音を自在に出せるように。

大学では2人の先生にたくさんのことを教えていただいたのでどんどん吸収していきました。音楽の全体だけを見ると細かい部分が疎かになったり、部分だけ見てもつながりがなくなってしまったり…そういう悩みを解消していただいて自分の音楽の中に取り込んでいけました。

 

ー それを生かして次は日本音コン受賞者コンサートに臨まれると思うのですが、「エジプト風」と打って変わって次はチャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番。王道、ど真ん中!ですね。

今度は知らない人がいないくらいの曲で、それぞれみなさんこだわりがあって聴きたい理想のチャイコがあると思うんですけど、それに完全一致することって不可能だとは思っています。そういう中で、こういう解釈も良いなとか、ああ面白いなと思ってもらえるような演奏ができたらなと。本当に難しくて先生によっても言うことが違って、華やかなだけに見えて細かい、テクニック的にも大変ですし、表現も時間足りないくらい奥が深いんですけど、そんな中でも聴き終わったときに良かったなとか、楽しい音楽だったなという風にみなさんに感じていただけるよう演奏したいです。お客様を楽しませたいというのは練習の中で常に考えていることです。

亀井聖矢

演奏中はぐっと大人に見える亀井さん。これから日本を背負う演奏家になっていくのでしょう! (c)宮森庸輔

 

ー それは素晴らしいですね!今後、どういうピアニストになりたいかという理想はありますか?

まず、国際コンクールに挑戦しようと思っています。小さいところから挑戦して、最終的には大きなところで賞が獲れたらいいなと。そして、演奏活動で生きていきたいという気持ちがあるので、今あるひとつひとつの本番を大切に。数が多くなってくると重みがなくなってしまう気がするので、今できる100%を常に出したいです。

僕は理想のピアニストが具体的にいなくて、色んな人の色んな部分を取り入れて自分の音楽を創っています。誰かのコピーだったら必要ないと思うので、自分の表現をお客様に届けたい。ピアニストとして、音楽家として、そうあるべきだと思っています。

亀井聖矢

 

★こぼれ話★

— 音楽とは全く別の趣味やマイブームはありますか?

謎解きが好きです。昔からずっとハマっています。元々理数系で考えることが好きで、よく問題を解いたり作ったりしているんです。友達に作った問題を解いてもらって、喜んでくれると嬉しいですね。

東京はリアル脱出ゲームなどのイベントも多いので、ちょくちょく行っています。練習や本番で頑張ったご褒美や息抜きに行くのですが、コンクール前にハマりそうになると「いけない!練習しなきゃ!」とセーブしています(笑)。

 

亀井聖矢(かめいまさや)
Masaya Kamei, piano

2001年生まれ。4歳よりピアノを始める。ピティナ・ピアノコンペティション全国大会 2015年 F級銀賞及び聖徳大学川並弘昭賞、2016年 Jr.G級ベスト賞、2018年 G級銅賞、2016年 ショパン国際ピアノコンクールin ASIA中学生部門全国大会金賞、アジア大会金賞及びソリスト賞、2017年 愛知ピアノコンクール高校A部門金賞及び中日新聞社賞、 全日本学生音楽コンクール全国大会ピアノ部門高校の部第1位及び横浜市民賞、野村賞、井口愛子賞、日本放送協会賞、かんぽ生命奨励賞、他受賞。ブルーノ・レオナルド・ゲルバー氏、マリア・ジョアン・ピリス氏等のレッスンを受講。これまでに、青木真由子氏、杉浦日出夫氏に師事、現在、上野久子氏、岡本美智子氏、長谷正一氏に師事。一般財団法人藤本育英財団奨学生。愛知県立明和高等学校音楽科を経て、2019年飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学。現在桐朋学園大学1年在学中。

第88回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会
第88回日本音楽コンクール受賞者発表演奏会
公演日 : 2020/2/26(水)開演18:30
出演者 : 亀井聖矢(ピアノ)、小堀勇介(声楽)、東亮汰(バイオリン)、山本楓(オーボエ)、瀧本実里(フルート)、他
場所 : 東京オペラシティ・コンサートホール
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