石川慶 監督インタビュー ~「蜜蜂と遠雷」にまつわるえとせとら#5

蜜蜂と遠雷 石川慶監督インタビュー

 

ショパンの国・ポーランドで学んだ石川慶監督に聞く『蜜蜂と遠雷』制作秘話


映像化不可能と言われながらも、原作者の恩田陸さんも絶賛の映画『蜜蜂と遠雷』を生み出した石川慶監督にインタビュー。原作と映画の「あの違い」や、音楽映画の制作に取り組むにあたって監督が挑戦したことなど、色々な裏話を聞かせていただきました。


ー まずはこの作品を監督だけでなく、脚本も担当されることになった経緯を教えてください。

初めは自分で脚本を書くという方向性ではなかったんです。でも、原作もそうなのですが、この作品は演奏場面――セリフじゃない場面がとても多い。脚本家にセリフを書いてもらって、演奏の部分はこちらで引き取る…ということになると、二度手間になってしまう。そういうことで、若干、切羽詰まってこの題材は自分で書くしかないんじゃないかと思ったんです(笑)。最終的に、自分が脚本も手掛けたことで、絵で語る話とセリフで語る話が、分離せずに調和したまとまりのある作品になったのではないかと思っています。

 

ー 原作はかなりのボリュームでした。監督・脚本・編集として映画を2時間に収めたことに対するこだわりは何かありますか?

基本、映画は短い方がいいと思っています。特に音楽映画は短く、シュッと駆け抜けるような、その1本自体が音楽みたいな映画にしたいと考えました。なるべく短くしたいと思っていたのですが、最初つないだときはかなり長かったですね。脚本を書いた時点でかなり削り、編集の段階でもシェイプアップをしました。回想シーンは極力なくし、現在を軸にして、ドキュメンタリーを見ているような構成にこだわりました。回想シーンがあったのは(松坂桃李さん演じる)明石くらいですかね。

 

蜜蜂と遠雷 石川慶監督

 

ー 最後まで「これは残そうかな…」と悩んだようなシーンはありましたか?

明石まわりですね。あの家族の回想のシーンはすごく好きで、ずっと残そう残そうとしながらも、最終的にはキュキュキュッとなっちゃいました。別に何のシーンということもないのですが、桃李くんと子どもがほのぼのしていて。子どもがお絵かきをしていて、桃李くんが「何描いてるの?」というようなシーンで、子役が毎テイク違うことを言うんですよ(笑)。「キリーン!」とか「いぬ~!」とかって。そういう現場の思い出も含めて、切りたくなかったシーンですね。でも、内容とはそんなに関係がないからしょうがないです。

 

ー 演奏を担当するピアニストが河村尚子さん、福間洸太朗さん、金子三勇士さん、藤田真央さんになったのは、どんなことが決め手だったのでしょうか。また、タイミングはいつ頃でしたか?

ピアニストたちはキャストと同時か、むしろキャストより先に決まったかもしれませんね。キャストは、バラバラの時期に決まったので一概には言えませんが。ピアニストが早めに決まったのは、撮影が開始する3.4か月前にレコーディングがあり、練習期間も必要だったからです。音楽部や音楽監修の方たちと、「本のイメージに近い人」ということを大切にして選びました。音楽に関心のある方たちにも納得していただけるキャスティングになっていると思います。

 

ー 私もそう思います。特に(風間塵の演奏を担当した)藤田真央さんが!

本当にフワフワッとした感じが(笑)。

 

ー 藤田さんは、風間塵を演じている鈴鹿さんとも雰囲気が似ている感じがしますよね?

そうなんですよ。丸くなってピアノを弾く姿勢も。レコーディングの時に、央士くんに藤田くんの演奏を見てもらったんですね。藤田くんは独特な鍵盤の触り方をする。そしてすごくいい音を鳴らす。あぁ天才ってこういうことなのかなと思いましたね。キャストは音を入れてくれたピアニストを参考にして、役作りをした部分があります。

 

蜜蜂と遠雷 石川慶監督

 

ー 原作では、亜夜とマサルの本選の曲がそれぞれプロコフィエフのピアノ協奏曲「第2番」と「第3番」でしたが、映画では亜夜が「第3番」、マサルが「第2番」になりました。この変更はなぜですか?

僕がリクエストしたんです。最初の理由としては、(亜夜の演奏を担当する)河村尚子さんのレパートリーの中で、得意曲が「第3番」だとお聞きしまして。ただ、そのことを聞いた時点では、(「第2番」から「第3番」に)変更するという発想はありませんでした。僕が曲を聴き込んでいた時に、YouTubeでマルタ・アルゲリッチの昔の「第3番」をずーっと聴いていたのですが、めちゃくちゃかっこよかったんですよね。何度も聴いているうちに、映画のクライマックスはこれがいい!と思ったんです。

 

ー 確かに、アルゲリッチの「第3番」はかっこいいですね。それで、同じく女性である亜夜に弾かせたいと思われたのですね。

映像を通して聴きたくなるのはこれかなと。周りからじわじわと攻めて、いろんな人に根回ししながら最後に恩田先生にお伺いを立てたところ、意外とすんなり「いいですよ」と快諾してくださいました。

 

蜜蜂と遠雷 石川慶監督

 

ー 石川監督は、この映画を作る前からクラシック音楽とのかかわりはあったのでしょうか?

あふれています。よく覚えているのは、ポーランドの映画学校での音楽の授業です。その授業の試験が、ショパンの曲をピアノでもなんでもいいから演奏するというもので。僕たち、監督科とか撮影科の学生だから、「いやいやいや…」と思ったのですが、彼らはみんなピアノを弾けるんですよ。それくらい、クラシックが一般教養として浸透している。卑屈になる必要はないし、うち(日本)にだって伝統芸能があるんだからと思いながらも、ちょっと悔しかった思い出がありますね。

 

ー 完成披露試写会のイベントでは、キャストのみなさんに「演奏シーンは演奏してもらう!」というムチャぶりや入念な役作りを頼んだと語っていらっしゃいましたが、この作品を作るにあたって、監督ご自身が取り組んだ役作りのようなものはありますか?

できる限りのことはやりましたね。実は、初めてお話するんですけど、電子ピアノを買ったんです。始めるには時すでに遅しで、2、3回触って「こんなことをやっている暇があるなら脚本を書け」と言われちゃいそうだと思って(笑)。でも、こういう機会だしと思ったのは確かです。今は…机の後ろにありますね。奥さんに「これ、どうするの!」ってめっちゃ言われてます(笑)。

聞き手・文/賀来比呂美 (かく ひろみ)

 

 

石川慶(いしかわ けい)

1977年6月20日生まれ、愛知県出身。ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。2017年に公開した『愚行録』では、2016年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞では新人監督賞も受賞。その他の主な映画監督作には短編『点』(17)がある。

 

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「蜜蜂と遠雷」映画情報

2019年10月4日(金)全国公開

史上初となる直木賞&本屋大賞のW受賞を果たした恩田陸の傑作小説「蜜蜂と遠雷」がついに実写映画化。

ストーリー
芳ヶ江(よしがえ)国際ピアノコンクールに集まったピアニストたち。復活をかける元神童・亜夜。不屈の努力家・明石。信念の貴公子・マサル。そして、今は亡き“ピアノの神”が遺した異端児・風間塵。一人の異質な天才の登場により、三人の天才たちの運命が回り始める。それぞれの想いをかけ、天才たちの戦いの幕が切って落とされる。はたして、音楽の神様に愛されるのは、誰か?

監督・脚本・編集
石川慶

原作
恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎文庫)

出演
松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士(新人)
臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ 眞島秀和 片桐はいり 光石研
平田満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史

音楽
ピアノ演奏:河村尚子(栄伝亜夜) 福間洸太朗(高島明石) 金子三勇士(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール) 藤田真央(風間塵)
作曲:藤倉 大「春と修羅」
オーケストラ演奏:東京フィルハーモニー交響楽団(指揮:円光寺雅彦)

製作情報
製作:映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
製作プロダクション:東宝映画
配給:東宝

公式サイト
映画『蜜蜂と遠雷』公式サイト
https://mitsubachi-enrai-movie.jp/

(c) 2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

映画「蜜蜂と遠雷」チケット情報【事前座席選択可】

蜜蜂と遠雷公開日:2019/10/4(金)
出演:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士(新人) 臼田あさ美 ブルゾンちえみ 福島リラ 眞島秀和 片桐はいり 光石研 平田満 アンジェイ・ヒラ 斉藤由貴 鹿賀丈史

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