2018年11月29日

オーケストラとともに~新日本フィル×久米信行会長<2>

新日本フィルハーモニー管弦楽団 久米繊維工業株式会社 久米信之会長

音楽を愛し会場に足を運ぶ聴衆ばかりではなく、多くの企業や個人に支えられているのがオーケストラ。その支援者をフィーチャーし、お話を伺うのがこのコーナー。

第1回は、新日本フィルハーモニー交響楽団を父の代から応援している、久米繊維工業株式会社の久米信行会長。観光協会や文化振興財団の評議員を務めるなど多忙な日々を送っている方だ。
NPOを応援するTシャツを作成する活動の一つに、新日本フィルのTシャツ作成があるということだが、そもそもなぜオーケストラを支援することになったのか。さらに生粋のロック好きである久米さんがどうしてクラシック好きになったのか、お話をお伺いした。(全3回)

 

「いずれ新日本フィルと日本文化の融合、日本発信のイベントをやりたいんです」

 

— クラシック業界ではなかなか先進的な取り組みが少ないように思いますが、どう感じていらっしゃいますか。

クラシック業界はいろいろなものを自己否定しているところがあってもったいないと思うんです。僕は新日本フィルの評議員なのですが、“変人枠”として呼ばれているからにはちゃぶ台返しをしなくちゃいけないなと感じているんです。以前、佐渡裕さんがベルリン・フィルで、舞台に上がった時からゾーンに入っていて記憶がない経験をしたとテレビ番組の中でおっしゃっていたので、そのことを引き合いに出しながら「最近新日本フィルはゾーンに入っていない」と言ったこともあります。僕はロックやジャズの人なので、ゾーンに入るという感覚が凄くよく分かるのですが、その時居合わせたソロ・コンサートマスターの崔 文洙(チェ・ムンス)さんが「まさにそう、若い人たちはただ上手く弾いている」と同調してくれました。チェさんは弓が切れるんじゃないかっていう勢いで弾く人ですから、“なにいい子ちゃんしているの?”という気持ちがあったんだと思います。でも面白いことに、その発言から“実はロック好き”という理事会や楽団員の大先輩が多いことを知りました(笑)。もともとロックが好きなのであれば、その感じをそのまま出してくれたら、私たちロック・ファンも行きやすくなりますよね。それでたまにオール・スタンディングのコンサートでもやってくれたら、みんなが“エア・ヴァイオリン”や“エア・トランペット”を持って、まるで“エア・ギター”をやるみたいにして弾きまくったりして、絶対楽しいと思うんです。

— 確かにクラシックは“おすまし”のイメージが強いですが、ロックな部分はありますよね。

先週「ベートーヴェン交響曲第7番」を聴きましたが、指揮者の上岡さんも神懸っていましたし、チェさんもグッと入り込んでいて、ちょっとロックっぽくてとてもよかったですね。あれを立って聴いたり野外で聴いたりしたら凄いことになったはず。ぜひFUJIROCKとかのフェスでやってほしいと思います(笑)。

久米繊維工業株式会社 久米信之会長

— FUJIROCKは凄いですね!クラシックの新たな展開が期待できそうです。

それと、今年もスウェーデンで北斎の展覧会をやるんですが、海外では北斎は大人気です。墨田区といえば北斎なので、ぜひ新日本フィルと日本文化の融合をやりたいと思っています。先日ノーベル賞で日本人が受賞しましたが、何で受賞したとかわからなくても“日本人が受賞した”ということでとても盛り上がりましたよね。僕はその逆をやりたいと常々思っているのです。北斎は世界中の人が知っていますから、世界中のアーティストを対象に、日本発信のイベントをやりたい。ドビュッシーがグレート・ウエーブ(冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏)からインスピレーションを受けて『海』を作ったように、楽団員が北斎の1枚1枚に自分のイメージで曲をつけるとか、世界中から集めるとか、まさに『展覧会の絵』でムソルグスキーがやったことをみんなでやれたらいいですよね。さらに言うと、北斎の場合はポップアート、サブカルチャーでもあるから、漫画やイラストなどの分野や、音楽やパフォーマンスアートがあってもいい。日本・スウェーデン外交関係樹立150周年の記念イベントで行われた新作能「北斎」が凄かったように、バレエやオペラがあってもいいですよね。そこで海外の方が賞を取ったら逆ノーベル賞状態になるじゃないですか。そういうものの世界初演を毎年「北斎フェスティバル」としてやれたら、モーツァルトの故郷でやるのと同じことができると思いませんか?

— 確かに日本発信でのそういうクラシックイベントはあまりないですね。

新日本フィルは武満徹さんの楽曲を積極的に演奏していますが、日本人による日本のイメージでもいいし、海外の方が日本をイメージしてやってもいい。その年に受賞した北斎リスペクトのメディアアートに、翌年は曲をつけてさらに膨らませていくような、そういうことをやりたいですね。

— クラシック、さら新日本フィルに期待していることが盛りだくさんですね。

幼い頃からクラシックに触れる人が増えてほしいんです。ハードルは高いかもしれないけれども、私がそうなったように、3年聴いてくれたらある時突然人生が変わるような体験ができるわけですし。墨田区にとって新日本フィルはとても大切です。僕が小さい頃の墨田区は、下町ならではの“友達は殆ど暴走族”みたいな、まるでヤンキーがデフォルトであるような町だったんですが、今は新日本フィルのおかげで、成人式になるとクラシックコンサートに耳を傾けてシーンとなることができるようになりました。小学校の頃から聴いているおかげですよね。これからは、役所の働きはもちろんですが、親御さんやこれから住まわれるご家族が一丸となって、生涯の財産としてクラシックのような芸術に触れる機会を作ってあげることが大切だと思います。そうそう、2020年4月に“全員を起業家にする”という非常に志の高い「i専門職大学(仮称・2020年4月開学予定/久米さんは教員に就任予定)」が新設されるのですが、そこの生徒となるITオタクと海外からの留学生たちにとって、新日本フィルがマイ・ファースト・オーケストラになってくれたらいいなと思っています。アジアの人たちがまるで母国の公演を聴きに行くように、定期会員になって毎月聴きに来るようになったりしてね。そういう拠点になってくれたらとても嬉しいです。

 

★こぼれ話★

— 強く残っている思い出の演奏は?

小澤征爾さんととても関係が深い、ロストロポーヴィチさんの演奏ですね。ある日ロストロポーヴィチさんがアンコールをやってくださったんですが、それがバッハの『サラバンド』だったんです。あれは生涯聴いた中で一番素晴らしい、心に沁みるコンサートでしたね。本当に祈りがあるというか・・・それを地元すみだトリフォニーホールで聴けたことが凄かったです。

— もしオーケストラに入ったら、どの楽器をやってみたい?

僕はオーディオファンなので、レコードで大きなスピーカーで音楽を聴いてきた人間だから、もともと低い音の楽器が好きだったんです。でも実際に生で聴くと、チェロ、ファゴット、ホルンとかの低い音の楽器はオーディオで聴くのとは全然違っていたので驚きました。すごくいい音。あれは生で聴かないと分からないです。あとは木管、特にオーボエの音も生で聴かないとわからないですよね。もちろんヴァイオリンもすごいですけどね。やってみるならチェロとかですかねえ・・・でも自分でやったらがっかりすると思うので、ギターだけで十分です(笑)。

 

久米繊維工業株式会社 久米信之会長

北斎画をデザインしたTシャツと。ちなみに久米さんが着用しているTシャツは、2013年からデザインを担当しているワビサビさんのデザイン。

 

《第3回目へ続く》

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《第1回目を読む》

 

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  • 2018/12/10 you**m**

    フジロックでクラシックなんて斬新だけど凄く面白いかも。ぜひ実現してもらいたい!クラシックにもフジロックにも新たな魅力になると思います。
  • 2018/12/10 pa**7**5

    オーケストラと日本文化の融合!凄い化学反応が起きそうですね!