オーケストラとともに~新日本フィル×久米信行会長<1>

新日本フィルハーモニー管弦楽団 久米繊維工業株式会社 久米信之会長

音楽を愛し会場に足を運ぶ聴衆ばかりではなく、多くの企業や個人に支えられているのがオーケストラ。その支援者をフィーチャーし、お話を伺うのがこのコーナー。

第1回は、新日本フィルハーモニー交響楽団を父の代から応援している、久米繊維工業株式会社の久米信行会長。観光協会や文化振興財団の評議員を務めるなど多忙な日々を送っている方だ。
NPOを応援するTシャツを作成する活動の一つに、新日本フィルのTシャツ作成があるということだが、そもそもなぜオーケストラを支援することになったのか。さらに生粋のロック好きである久米さんがどうしてクラシック好きになったのか、お話をお伺いした。(全3回)

 

「3年同じことを繰り返すと脳が発火するんです。僕も3年経ってある日突然クラシックが好きになりました」

 

— 新日本フィルとは、そもそもどういう出会いがあったのでしょうか。

墨田区にすみだトリフォニーホールができて、小澤征爾さん指揮の新日本フィルが来ることになったときに、当時の副区長さんが訪ねてきて「ぜひご支援を」とお願いされたのが新日本フィルとの最初です。私の父が小澤さんの大ファンだったので「まさかこの下町に小澤征爾さんが来てくださるとは!」と喜んで賛同しまして、翌年からは定期会員にもなりました。僕はそのとき30代半ばでクラシックにも全く興味がなかったんですが、「お前も定期会員になれ」と言われるままに会員になりました。

— それまでにクラシック音楽に触れたことは?

エマーソン・レイク&パーマーという“シンセサイザーの魔術師”みたいな方が、『展覧会の絵』全曲をやるというコンサートをやったんです。その時はもう「なんだこれは?!」でしたね。あとは世界的なシンセサイザー奏者の冨田勲さんがドビュッシーやホルストをやっていらしたので、その程度は知っているという感じでした。
それと私はギターを弾くのですが、エレキからアコースティックに移行して、ポール・サイモンとか、イギリスやスコットランドなどのケルトの香りがする音楽を聴くようになって、ギターの楽譜を探していたんです。そこで出会ったのがバッハでした。音が2音しかなく、さらにゆっくりなのにプログレッシブ・ロックで、衝撃を受けました。音をなるべく詰め込んで世界観を作る本来のやり方とは真逆なのに、それでもお城が見えてくるんですよ。「これはすごい」と思いましたね。でもフルオーケストラにお金を出して聴きに行こうとまでは思いませんでした。

— そこでお父様に誘われた訳ですね。

そうです。定期会員券を2枚買わされて、さほどクラシックに興味がない家内と1か月に1回ホールに行って寝る、というのを3年間繰り返しました(笑)。でもね、人間って3年同じことを繰り返すと脳が発火して変わるらしくて、僕も3年経ってある日突然クラシックが好きになったんです。静かなものやモーツァルトみたいな楽曲でも体が動いてくるようになって、“クラシックもロックみたいだ”、“全て根っこは繋がっていたんだ”と脳が発火して、クラシックが好きになりました。隣の老夫婦が固まって聴いていることが不思議で仕方なくて(笑)。

— そうして通うようになって、何年くらい経つのでしょうか。

新日本フィルが墨田区に来て以来ずっとなので、もう20年以上になりますね。父は一番前の席を持っていて、僕は後ろの方で。でもその父も数年前に他界しました。その時ですよ、当時のパトロネージュ担当の方が訪ねていらして「このお父様が残された席をあなたはどうなさいますか?このまま持ち続けますか?それとも・・・流しますか?」って(笑)。それでそのまま定期会員券を2セット持つことになったんです。2×2で4席あるので、友人に配ったり母にあげたりしていますが、なかなか「じゃ、行こうかな」とはならないんですよね。

久米繊維工業株式会社 久米信之会長

— 定期会員になっていて感じるメリットはなんですか。

僕も定期会員になってからその良さがわかって友人たちにも勧めているのですが、クラシックが全然わからないのにコンサートに行くとなっても、何もわからずにフランス料理店に行って料理やワインを頼むようなものでしょう?でもその点、定期会員は「大将、好きなの握ってくれ」という“おまかせ”なんですよね。もちろん全て好きな曲ばかりじゃないけれども、いろいろ聴いているうちに自分のキャパシティも広がってきたりして面白いものです。今はネットで好きなものを検索できる時代で、AIがリコメンドしてくれるものだからつい自分の好きなものばかり聴いてしまう。でも“おまかせ”ならば、適度にいろいろな料理を食べさせてくれるし、料理人も毎回違う。同じ新日本フィルでも、指揮者やソリストが変われば全然違いますからね。
あと良いことは、オーケストラの予定は1年先まで決まってるから、先に予定が入れられるんですよ(笑)。僕みたいな中小企業の会長兼地元の雑用係をやっているとどんどん予定が埋まっていってしまうので、その点いいんですよ。しかもそこに行けばいつもの自分のシートがあって、そこに座ったらあとはもう“おまかせ”。とても贅沢な話ですよね。昔ならば王侯貴族しかできない贅沢ができるのに、どうしてみんなやらないのかな?と思います。まあ、25年前の私はなんだったんだという話にもなりますが(笑)。

— 日常生活の中ではどんな風にクラシック音楽を楽しんでいらっしゃいますか。CDもたくさんお持ちだそうですね。

CDは何千枚と持っています。基本的には定期会員の“おまかせ”と一緒で、僕のクラシックCDの買い方はとてもシンプルです。新日本フィルのコンサートに行って、CD売り場でサイン会をしていたら買う。アルミンクやハーディング、上岡さんの時も買いましたね。ソリストの方でもいいなあと思う人がいたら買います。それがたくさん溜まってきた感じですね。一番聴く機会が多いのは車の中ですが、家での聴き方は2つあって、一つは地下のCDが山ほど置いてあるオーディオルーム。僕はオーディオにこだわっているので、昔はそれがいい音だと思っていたのですが・・・今は生の音を知ってしまったのでなかなか聴けなくなっていますね。だから車の中で軽く聴く感じにしています。もう一つは居間に小さなスピーカーをたくさん置いているので、そこでサラウンドのようにして聴いています。楽器を弾かれる方はその聴き方が好きではないというのも聞きますが、私は家で仕事をすることが多いので、そういう時に流しています。最近は実験的に「アレクサ、ちょっと気分が落ち着くクラシックをかけて」とスマートスピーカーも使ったりしています(笑)。結構それなりの曲が流れてきますよ。プレイリストもいくつもありますしね。

— お仕事中にも聴いていらっしゃるのですね。ちなみにクラシックからご自身のお仕事に活かせること、得たことはありますか?

僕も経営者なのでドラッカーを読みましたが、ドラッカーは、「21世紀の経営は“オーケストラ経営”だ」というのです。プロフェッショナルの集まりだから、楽譜は読めるし言われれば弾ける。ファストフードチェーンとかはマニュアルがあるけれども、オーケストラにはマニュアルはない。話しながらみんなで理解してその場で合わせていく、つまり阿吽の呼吸で経営できるのが“オーケストラ経営”なんです。だからいつもオーケストラを聴きながら、指揮者の力の凄さを感じています。ずっと新日本フィルの演奏を聴いているなかで、「なんで新日本フィルでこんな音が出るんだ?!」と思うことがあります。楽団員の方々に言わせると「指揮者が入ってくる瞬間にわかる」らしいんですが、指揮者の力は凄いですよね。それと、今音楽監督をしてくださっている上岡さん、つくづく偉いなと思っているのですが、最後拍手喝采で何度も登場するときに、きちんと一人ひとりを立たせるんです。地味な後ろから始めて列の前まで全員を立たせてから自分が居なくなって、拍手を終わらせる。拍手を浴びることがその人たちのエネルギーになることを分かってやっていると思うので、ある意味の社員教育というか、素晴らしいですよね。

 

★こぼれ話★

— ご自身のテーマソングがあれば教えてください。

中小企業は何度も会社が潰れそうになったりしますし、個人的にも嫌なことはいっぱい起こります。そういうときに好きで聴くのが、ホルストの『木星』。物凄く元気がでる。一番元気が出る曲じゃないかな。途中のゆったりとした間奏のところも、チャールズさんとダイアナさんの結婚式でも使われてましたよね。あとはラヴェルの『ボレロ』。自分の心の中で流して、テンション上げてます(笑)。そういうアッパー系に対して、ダウナー系ではフランスの音楽が好きですね。サティとかのピアノのシンプルな曲がいいです。ドビュッシーの静かな曲とか。あとはもちろんバッハ。最初から最後までバッハは凄いなと思います。

 

久米繊維工業株式会社×新日本フィルハーモニー管弦楽団 Tシャツ

こちらは久米さんの会社(久米繊維工業株式会社)が作成した新日本フィルのTシャツ。左側の赤いTシャツのロゴを指して「そう、これドアーズなんですよ!しかも赤!上岡さんの名前が入っているものなので、上岡さんが振るときにはできるだけこれを着ていこうと思ってるんです。この間は最前列でこれを着てました(笑)」とロック魂をのぞかせた。

 

《第2回目を読む》

 

久米繊維工業株式会社(※外部サイトへリンクします)
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新日本フィルハーモニー交響楽団(※外部サイトへリンクします)
支援(パトロネージュ・システム)
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法人の皆様
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パトロネージュシステムとは
https://www.njp.or.jp/wp-content/themes/njp/pdf/patronage/qa/patronage_qa_1.pdf

  • 2018/12/18 you**m**

    深いなぁー 元々クラシックがあまり好みではないところから始まっているというのがまた深い。
  • 2018/11/27 don1******an

    とても楽しく、面白く拝見させていただきました。このような文章を読み、クラシックに興味を持つ方が増えると素敵な事ですね。続きが待ち遠しい。