2018年12月25日
鈴木康浩《読売日本交響楽団》オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

取材依頼書-読売日本交響楽団 鈴木康浩様
このたびは『ひびクラシック』の名物企画「オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~」の取材をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
こちらが5つのルール・諸注意となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
①完全指名制です。
②次の指名は、ご自身の所属するオケと一つ前の人が所属するオケ以外の方でお願いします。
③できればご自身と違う楽器奏者の方をご指名ください。
④質問は全部で10個あります。
⑤あなたのファンが急増するかもしれませんので、どうぞお気を付けください。
ー 人生最高の演奏会(自身が演奏したものでも聴いたものでも)を教えてください。
僕にとっての最高の演奏会は2つあります。ベルリンに留学して、3年半ほどベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーに契約団員として在籍していた2004年に、クラウディオ・アバドの指揮でマーラーの交響曲第6番をやったんですよ。まずそれが1つ目。
あの曲は長いんですけど、演奏が始まったら、あっという間に終わっちゃったんですよ(笑)。アンサンブルの技術や譜面のこととか、あれこれ余計なことを考えずに、彼と一緒に演奏しているっていう感覚だけで本当にあっという間に時間が過ぎた。その感覚は、おそらく聴いてるお客さんにも伝わったと思います。これは僕の中でもそうそうない経験。しかも、それが3日間続いた。オーケストラの素晴らしさを身をもって体験できました。
ちなみに、次の日からはマリス・ヤンソンスが指揮で、フランスのプログラムだったんですが、全員がエネルギーを使い果たし、まるで魂を抜かれたようになった。ヤンソンスが苦笑しちゃうぐらい(笑)。これも素晴らしかったですね。
もう1つは、読響で2016年1月にスタニスラフ・スクロヴァチェフスキの指揮でやったブルックナーの交響曲第8番。あれもすごかった。ブルックナーになりきりながらも、スクロヴァさんの中にある全てがにじみ出ていたというか。練習から集中力の高い演奏ができて、このときも本番はあっという間に終わっちゃいました。でも、終わった後に、やっぱりものすごい感動が込み上げてきましたね。スクロヴァさんに感動して、ブルックナーに感動して、自分のオケに感動してって(笑)。
ー 人生最高のCDを教えてください。
普段あまりCDを聴かないんですよ。でも、好きなアーティストはいます。タベア・ツィンマーマン。若いとき一番よく聴いていたのは、彼女が弾いたシューマンのCDですね。「Marchenbilder(おとぎの絵本 Op.113)」というヴィオラの曲や、ヴァイオリン・ソナタをヴィオラで弾いた曲なんかが入っています。
タベアの良さは、ドイツの音楽の骨格を残しつつも限りなく自由な音楽性のバランス。あとは、何よりも彼女の音が好きなんです。音楽と音の両方が好きだから、聴いていてすごく楽しくなっちゃうんですよね。
ー あらゆる職業の中から音楽家として生きていることについて、どういった使命を感じていますか?
音楽家って、人の幸せで成り立っている仕事だと思うんですよね。皆さんに足を運んでもらって、演奏を聴いてもらって、 “心の満足”を得て帰っていただく仕事。だから、どうやってその幸福感を味わってもらうかということを常に考えているわけなんですが、結局僕らだけの力じゃダメなんですよね。そこまで大層な人間じゃないから。
ただ、僕らには作曲家という素晴らしい芸術家たちがいて、その作曲家の力を借りることで、皆さんに素晴らしい音楽を届けることができるんです。だからこそ、常に作曲家をリスペクトするし、彼らの苦悩に共感したからこそ、その作品が名曲として残っている。それをいかにして、自分というフィルターを通して皆さんにお届けするかということなんですよね。
人生ってもちろん楽しいことだけじゃない。それと同じで、音楽にも悲喜こもごも、作曲家たちのそのときの喜びや苦悩が入っているんです。例えば、バッハには神様に純粋に祈りたくなるような曲、ベートーヴェンには己の苦悩をぶつけた曲、あるいはブラームスのように恋愛で悩みつつも、そのベートーヴェンの崇高さを感じさせるような曲だったり、本当に色々。複雑な人間性が音楽に表れていると思うんです。そういうところを音として導き出して、会場の皆さんと共感できたらいいなと。
好き嫌いもあるので、そこにいる全ての人の心を動かすというのは難しいと思うんですが、それでも、なるべく多くの人たちを幸せにできるような演奏をするっていうのが僕の使命だと思っています。
ー どうしてヴィオラを選んだんですか?
最初はヴァイオリンをやっていたんですが、途中からやっぱりヴィオラがやりたくなったんです。ヴィオラの方が音に対して圧倒的にイマジネーションが膨らむんですよ、僕の場合。すごく感覚的なことなんですけど。そうすると、例えばピアノでいう「ド」の音であれば、様々な音色のドを追究しながら、それだけをずっと弾いていられるというか。ようするに、マニアックな世界にどっぷり浸かれたっていうのがヴィオラを選んだ理由の1つですね。
僕自身あまり目立ちたい性格じゃないので、メロディを自分で弾くより、実は他の人が弾いているのを聴いてる方が好きだったりするんです。室内楽だったら、ヴィオラが支えて、ヴァイオリンやチェロがメロディを弾くと。そういうのを俯瞰するように聴くのが好きなんですよ。結局、サポートするのが得意なんだなって。それが2つ目ですね。
彼らがやっていることに対して、自分のヴィオラをこういうふうに入れると、こういうニュアンスで、こういうハーモニーが生まれるとか。そういうことをイメージしやすかったので、完全にヴィオラに転向することになりました。ただ、ヴィオラ自体は12歳から桐朋学園の音楽教室で弾いていて、高校進学後も、体が大きかったこともあって、オーケストラと室内楽ではヴィオラを弾くことが多かった。それでも完全に変わったのは卒業後の22歳ぐらいのときだから、まだ短いんですよ。
その後、2年間プライベートでレッスンを受けてからドイツに留学。28歳ぐらいに帰国してから、また2年ほどフリーをして、2006年に30歳で読響に入ったというわけです。フルートの方の推薦があって、エキストラとして1度、客演首席をやらせてもらったのがきっかけですね。当時、日本でほとんど仕事をしていなかったので、新鮮だったんでしょうね。多分、だいぶやんちゃだったと思います(笑)。
ー 目立たないけどこの曲のココに注目して欲しいとかありますか?
刻みの勢いは常に注目してもらいたいですね。例えば、ベートーヴェン『運命』の第4楽章で、金管とかがメロディラインを弾いてるときの、真ん中を弾いてるのはヴィオラだけですから。あとは、メンデルスゾーンの交響曲第3番『スコットランド』の一番最初だったり、ブラームスの交響曲第4番第2楽章の中間部でヴィオラが表と裏で二重奏で弾くところだったり。
僕個人に関して言えば、メロディに対しての“目立ちたがり度”は異常に低いかもしれない。むしろ、目立たないときこそ燃えるというか、アンサンブルの中に入り込んでいる方が充実感があって好きですね。リヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』の「英雄の戦場」なんか、ものすごい勢いで弾いているんですが、他の楽器も一斉にかぶさってくるから、ヴィオラは一切聴こえない。でも、いいんです。目立たなくても全速力!
ー この楽器だけは自分には無理!っていう楽器はありますか?
コンサートマスターは、見ていてかわいそうだなと(笑)。もちろん、彼らは楽しんでやっているんだけど、オケをまとめ上げるのは相当しんどいんじゃいなかなと思います。楽器で言えば、ヴァイオリンかな。元々やってはいましたが、やっぱり技術的に難しい。あの運指を練習するのはかなりの時間を要するだろうなと思います。どちらもキャパシティ的に、ヴィオラの僕が1ギガだったら、1テラバイトぐらい、スーパーコンピューター並みの容量がないときついだろうな(笑)。
ー 楽器をやっているからモテた、あるいはモテなかった経験談を教えてください。
そもそも僕、学生時代は”女子の多い”共学校に通っていたんですよ。高校は桐朋女子(※男女共学)。音楽学校って男子が極端に少なくて、男女比はだいたい1:9。だから、どんな男でも宝石に見えたんでしょうね(笑)。
こんな話をする機会はめったにないので言いますけど(笑)、僕、わりと惚れやすくて、しかも好きになるとすぐ告白しちゃうタイプなんですよ。だから、色々な人と付き合うことができたっていうのもあって・・・熱しやすくて冷めやすいわけじゃないんですけど、まぁ突っ走りやすいタイプでした。楽器全然関係ないですね(笑)。
ちなみに、過去好きになった人は、ヴァイオリンが多かった気がします。やっぱりアンサンブルするからかな。でも、好きな人とアンサンブルはやっちゃいけないなっていう結論に至りましたね。喧嘩になると音楽的なものに響くから(笑)。
ー 音楽や楽器演奏とは無縁の趣味とかありますか?(最近ハマっているものはありますか?)
遊ぶ時間自体があまりないので、外にアクティヴに出掛けるっていうよりは、暇を見つけてはゲームをしているって感じですかね。この3年ぐらい「モンスターストライク」にハマってて、移動や休憩中に5分でも時間があればやっています(笑)。
もっと時間があれば、誰かと飲みに行ったりもしますけどね。逆に家ではほとんど飲まない。人と飲むのが好きなんですよ、バカ話しながらとか(笑)。この業界、お酒が好きな人多いんですよ。うちのコンマスも非常に飲む人(笑)。
時々、仲の良い団員と温泉に行ったりもします。ロマンスカーで箱根一泊とか。僕、旅を企画するのが好きなんですよ。全部こちらで行く先とスケジュールを決めた、奥さんとの温泉旅行。こないだも東北温泉ツアーに行ってきたばかりですから。
ー クラシックと離れた人で好きな方はどなたですか?理由は?
サッカーも野球も大好きで、スポーツはよく観るんですけど、やっぱりアスリートの人たちのストイックに邁進する姿勢っていうのは尊敬できますよね。もちろん、音楽家に勝ち負けはないんですけど。ただ、例えばフィギュアスケートのように、演技を芸術へ昇華させる部分っていうのは、音楽家とすごく似ているなと思います。
そういう意味では役者さんもそうですね。役に入り込んでいくストイックな姿勢はすごいなと。実は、大滝秀治さんが好きで、大滝さんのおっしゃっていた言葉を自分の心に留めているんです。
❝ 自信の上には奢りがあり、謙遜の下には卑屈がある。決して自信に堕ちるな、謙遜に満ちるな。❞
自分が何かをやるときに、ダメだダメだと思い過ぎて卑屈になるのもよくないし、上手だと思って鼻高々になってもいけないっていう言葉なんですけど、物事ってちょうど良い塩梅っていうのがあるんですよね。この言葉を聞いて、ああ、なるほどなと。
ー では最後に、次の“オケトモ”をご指名いただけますか。
N響のホルンの福川伸陽。年下なんですけど、むちゃくちゃ面白いやつ。N響では絶対皮をかぶっていると思う(笑)。
彼は、音楽の造詣も深いし、自分の楽器以外にも勉強熱心。例えば弦楽器だったら「ボーイングってどうやるの?」って、その音色を採り入れてみようと試みたり、そういうことをすごく考える男。寄せ集めのオーケストラで仕事をしているときなんかも、いかにしてみんなで一緒に音楽を作るかっていうことをまず考える。ホルンって楽器は難しいから、ついつい自分のことになりがちなんですけど、彼はアンサンブルに対する気持ちがとにかく強くて、自分のことは二の次ぐらい。そういう部分でも一緒にやっていて楽しい相手ですね。尊敬しています。
ー 福川さんへひとことお願いします。
なんか面白いこと言って(笑)。
愛用のスマホケースはまさかの”ギャル男”仕様!「僕自身とは正反対のギラギラで(笑)」。
鈴木康浩(すずき やすひろ)
桐朋学園大学卒業。ヴァイオリンを辰巳明子氏、ヴィオラを岡田伸夫氏に師事。第9回クラシックコンクール全国大会ヴィオラ部門第2位(1位なし)。第12回宝塚ベガ音楽コンクール弦楽部門第1位ほか受賞多数。2001年からベルリンのカラヤン・アカデミーで研鑽を積んだ後、ベルリン・フィルの契約団員となる。04年に帰国し、06年から読響ソロ・ヴィオラ奏者。

発売日 : | 2005/04/29 |
レーベル : | DG |
フォーマット : | CD |

発売日 : | 2016/06/22 |
レーベル : | 日本コロムビア |
フォーマット : | SACD |

公演日 : | 2019/3/26 (火) 19:00開演 |
出演者 : | ヴァイオリン:長原幸太/ヴィオラ:鈴木康浩/チェロ:上森祥平/ピアノ:津田裕也 |
場所 : | 東京文化会館 小ホール |
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