2019年02月19日
福川伸陽《NHK交響楽団》オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

取材依頼書-NHK交響楽団 福川伸陽様
このたびは『ひびクラシック』の名物企画「オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~」の取材をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
こちらが5つのルール・諸注意となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
①完全指名制です。
②次の指名は、ご自身の所属するオケと一つ前の人が所属するオケ以外の方でお願いします。
③できればご自身と違う楽器奏者の方をご指名ください。
④質問は全部で10個あります。
⑤あなたのファンが急増するかもしれませんので、どうぞお気を付けください。
ー 指名者の鈴木康浩さんから「なんか面白いこと言って(笑)」というメッセージをお預かりしています。
投げ方が雑だなー(笑)。彼とはもう10年以上の付き合いなんですけど、いろいろ面白いエピソードがあって。とある音楽祭で一緒に飲んでいたんです。その帰り道に僕が電話していると、先を歩いていた彼が「なに電話してるんだよー!」とダッシュで戻ってきて、勝手につまづいてゴロゴロと物凄い勢いで転んでいきました(笑)。どこかひねったらしく「痛い!おまえのせいだー」ってずっと言ってたんですけど「わかったわかった」って、その後もホテルで飲み続けていたんです。そしたら、翌朝の練習に彼がいなくて、周りの人に聞いたら救急車で運ばれていったと。
結局骨折してたみたいで、その音楽祭のあと読響で協奏曲のソリストを務めることになっていたから、松葉杖でステージの真ん中まで歩いていって、ヴィオラを人から受け渡してもらって弾いたっていう(笑)。僕は「何やってるの」って爆笑しちゃったんですけど、いまだに「お前のせいだ」と言われます(笑)。
でも、ひとたびヴィオラを弾くと、すごい天才的なんですよね。アイデアとかインスピレーションが素晴らしいし、「君がそうやりたいのなら僕はこういう雰囲気かな」って感じ取ってくれて、ディスカッションがスムーズに進むから良い音楽を作ることができるんです。本当に尊敬していますね。
ー 人生最高の演奏会(自身が演奏したものでも聴いたものでも)を教えてください。
聴いたものだと、イギリス留学中だった2006年のロンドン交響楽団の演奏会ですね。ソリストは内田光子さんで、この時初めて彼女のピアノを聴きました。会場のバービカン・ホールはものすごく響かないホールでどんな音でも止まってしまうんですけど、彼女がモーツァルトの協奏曲の最初の音を弾いた途端、会場中に音が響き渡って、ただただ美しい世界がそこに広がったんですよ。あの時はもう自分が音楽家だっていうことを忘れて、ただ本当にクラシックがすごい好きだった昔に戻ったような感覚でしたね。
演奏したものだとふたつあって、まずひとつは、N響で2011年にリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』をやったときです。指揮は尾高忠明さん。僕がN響に入るきっかけになった演奏会でよく覚えています。ちょうどN響が首席奏者を探していて、エキストラで声をかけていただいたんです。
実際に演奏して感じたのは、オーケストラの持つエネルギーのすごさ。僕がこうしたいっていうのをセクションがすごい尊重してくれて、こういうオーケストラに入れたら楽しいだろうなって思いました。ヴァイオリンとホルンのデュオのフレーズで、コンサートマスターのライナー・キュッヒルさんとふたりで音楽的な会話をしたのも、とても思い出深いですね。
もうひとつは、留学中にロンドン交響楽団で演奏したとき。この時はマーラーの交響曲第3番で、指揮はゲルギエフだったんですが、パワーに圧倒されて何を振ってるか分からなくて、最初の音を出せなかった(笑)。オーケストラ全体での演奏はもちろん、首席奏者のソロもすごく美しくて、この中の一員になれているなんて…とすごい幸せでしたね。僕の師匠のソロも隣で聴けて、貴重な経験ができたと思っています。
ー 人生最高のCDを教えてください。
オーケストラの中でホルン奏者が座っている席って、音の渦の真ん中にあるからすごく贅沢な特等席なんですよ。だから今はあまりCDを聴かなくなってしまいましたね。ただ、学生時代にはよく聴いていましたよ。バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィル、マーラーの交響曲第1番はとても印象的で、これが僕のマーラーとの最初の接点ですね。
この録音はテンポがすごく速くてそれに慣れていたから、オーケストラに入って実際に演奏した時に遅く感じてびっくりしましたね。他にも、聴いて知っている曲でも、楽譜を見て思っていたのと違ってびっくりすることが結構あって。これは、演奏家あるあるだと思います(笑)。
ー あらゆる職業の中から音楽家として生きていることについて、どういった使命を感じていますか?
基本的には常に自分が楽しいと思って音楽をやっています。その中で様々な体験の積み重ねとして「降りてくる」ような瞬間がたくさんある。オーケストラでもそうなんですけど、僕の場合は室内楽とかリサイタルのことが多いですね。
次をこうやろうっていうのが全く計画にないんだけど、この先をどうすればいいかは今出している音が知っている、みたいな。リハーサルでは考えもしなかったようなものが出てくると、これってただ楽しいだけではなくて神とつながるっていうような、つまり「降りてくる」という瞬間だなと思います。こういうときの音楽を人に渡すっていうことはとても大切なことじゃないかな。
その受け取り方は千差万別だし、歌詞もない抽象的なものを人に渡しているので、絵とか彫刻とかと同じで抽象的になればなるほど、感じ方が色々あるじゃないですか。今感じたことはすぐになくなってしまうかもしれないけど、それがその人の心に生まれたっていうことがすごく大事だと思う。
そういう体験って別に起こらなくても人生なにも問題がないんだけど、一晩のコンサートを聴いて、なにか良いものをもらったなとか、逆にすごい悲しい気持ちになったなとか…音楽ってその瞬間その人の人生にタッチしますよね。それってとても文化的、芸術的だなって感じます。
音楽を聴いて心に何かが残るっていう機会を、多くの人に持ってもらうことが、僕の使命ですね。
ー プロの演奏家になりたいと思ったきっかけ、時期は?
小さい頃からピアノをやっていてクラシックが好きだったので、中学校で吹奏楽部に入ってホルンを始めました。中学校が家から離れていて、毎日満員電車に乗って通学していたのですが、このまま60歳までこれは無理だなって。その時13歳でサラリーマンの定年60歳まで47年、ずっと満員電車で行き帰りって思ったら絶望的で。ちょっと違う職業はないかなって考えていたら、ホルンがある程度人より吹ける、これが職業になるのかもって、音楽家という道が見えてきたんです。中学3年の時でしたね。
ー 話せるレベルの失敗談を教えてください。
学生時代に変な転び方をして、親指を剥離骨折したことがあるんですよ。ホルンは4つ押すところがあるんですけど、それが3つしか押せなくなると非常に難易度の高いものになるんです。その状態で本番をやったことがあって、とても大変でしたね。
あとは、マーラーの交響曲第1番で最後にホルン全員で立って演奏するところがあるんですけど、本番中に立った瞬間、カランカランって音がして、吹いてるんだけど全然自分の音が鳴らない!なんだろうと思って見たら、息が流れるはずの管が取れて床に落ちてて。まずい!って思って吹きながら拾い、座って管を元通りに入れてまた立つ、っていうことをやりました。周りが、なんで座った?!座るのここで?!ってなりましたね(笑)。
あとは失敗談ではないんですけど、いたずらされたりもありますね。チャイコフスキーの交響曲第5番のソロで、楽譜をめくったらグラビア雑誌の切り抜きがどかんと置いてあって、笑って大変だったことがありました。もちろんお返しに、その人のソロがある曲の時に、同じように雑誌の切り抜きをセットして、楽譜をめくったら見えるようにしてあげましたけどね(笑)。
ー この楽器は自分には無理!っていう楽器はありますか?
やりたいんだけど絶対無理だなっていうのはヴァイオリン。弦楽器の中でも特に大変そう。それからピアノかな。音が多いし全部暗譜しなければならないし。でも弾けたら自分の世界が広がるだろうなと思います。ラフマニノフなんか弾けたら最高だろうし、チェンバロ奏者になってバッハも弾きたい。鍵盤楽器をやっていたら色んな楽器との共演ができるから羨ましいですよね。
ー 音楽や楽器演奏とは無縁の趣味とかありますか?
映画を観るのがすごい好きです。特に洋画。年に5-60本くらい映画館で観ています。家では月に2-30本くらいかな。SFだとスターウォーズが一番好きですね。全作観ていますが、特にエピソード4のワクワク感といったらもう。一番最初にライトセーバーが出てきたときは興奮しましたよ「うおおおお!」って(笑)。
他には人間ドラマも観ます。ニュー・シネマ・パラダイスは金字塔ですよね。あとゴッドファーザーが好きで、交渉とはどういうもので、どう進めていくかっていうのを観るのが楽しい。イエスとしか言わせないようにするんですけど、そのためにはちゃんと前段階があって、すごく勉強になるんですよ。人と人との繋がりを学んだりとかね。
他に今やろうとしているのは、船舶免許を取ること。マリンスポーツとか釣りを趣味にするのも楽しそうだなって思っています。僕、自然がないとダメなんですよ。ずっと都会で暮らしてきたけど、たまに地方に行って、山が紅葉してたり空が綺麗だったりするのを見て、素敵だなぁってぼーっとできるんです。自然が大好きだし必要なものなんだなって。
ー オシャレ男子の福川さん。ファッションへのこだわりはあるんですか?
昔から好きなものが決まっていて、ジャケットとシャツみたいな感じですね。忙しかったらTシャツとジーンズで出掛けるけど、やる気のある時はテーマを決めて服を考えるのが結構好きで。
例えば、今日はアメリカ音楽が中心で、という時にはアメリカンテイストで、茶色いレザージャケットを羽織っていくとか。フランス音楽をやるときは、印象派みたいな淡い色使いでいこうみたいな。そういうのが好きなんですけど、やり始めるとだんだん普段こんなの着ないだろみたいな色や形が集まってきちゃって(笑)ビビっとくるとパっと買ってしまうんだけど、相当衝動がないと買わないかな。ハードル高いですね。
ー では最後に、次の“オケトモ”をご指名いただけますか。
バッハ・コレギウム・ジャパンの首席オーボエ奏者、三宮正満さん。めちゃめちゃ面白い人です。みんなから“三ちゃん”って呼ばれています。
古楽のスペシャリストで、音楽家として知識がすごく豊富。あんなに難しい楽器を音楽的に素晴らしく吹ける人ってあんまりいない。現代のオーケストラではなくて、人数が限られた古楽のオーケストラでやっているから特に、耳がオーケストラ全体に本当に行き渡っていて。オーボエだからとかホルンだからとか、そういうことを全く考えないで同じ言葉を喋ろうと常に考えていらっしゃるから、すごい尊敬しています。
ちなみに、そんなにすごい人なのに飲むとヘロヘロになってただのおじさんになります(笑)。
今回の撮影場所Cadenzaは、“住まいと調和したホームシアターづくり”をコンセプトにした、まるごとショールームの一軒家。
葉山町民有志が中心となって年4回、国内外で活躍する演奏者を招いて行う「葉山室内楽鑑賞協会」の事務局も兼ねている。最上階からは富士山も。
福川伸陽(ふくかわ のぶあき)
NHK交響楽団首席奏者。第77回日本音楽コンクール ホルン部門第1位受賞。ソリストとして、パドヴァ・ヴェネト管弦楽団、京都市交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、N響メンバーによる室内オーケストラ、横浜シンフォニエッタ、兵庫芸術文化センター管弦楽団、東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団他と共演している。日本各地やアメリカ・ヨーロッパなどに数多く招かれており、「la Biennale di Venezia」「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」「東京・春・音楽祭」などをはじめとする音楽祭にもソリストとして多数出演。キングレコードより3枚のソロ CD、リヒャルト・シュトラウスの協奏曲第2番のライブレコーディングや、オクタヴィアレコードより多数の室内楽CDをリリースし、音楽之友社刊「レコード藝術」誌上にて特選版に選ばれている。
YouTube 福川伸陽Nobuaki Fukukawa
Twitter @Rhapsodyinhorn
Instagram nobuakifukukawahorn
Facebook @nobuaki.fukukawa1981

発売日 : | 2016/01/13 |
レーベル : | キングレコード |
フォーマット : | CD |

発売日 : | 2019/02/06 |
レーベル : | ソニーミュージック |
フォーマット : | SACD |

発売日 : | 2012/06/01 |
レーベル : | Sony Classical *cl* |
フォーマット : | CD |

公演日 : | 2019/3/30(土) 18:00開演 |
出演者 : | ホルン:福川伸陽/ヴァイオリン:水谷 晃、小関 郁/ヴィオラ:佐々木 亮/チェロ:横坂 源/コントラバス:幣 隆太朗/フルート:上野星矢/オーボエ:荒 絵理子/クラリネット:亀井良信/ファゴット:福士マリ子/打楽器:竹島悟史/ピアノ:中川賢一 |
場所 : | 東京文化会館 小ホール |
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