2019年03月19日
三宮正満《バッハ・コレギウム・ジャパン》オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

取材依頼書-バッハ・コレギウム・ジャパン 三宮正満様
このたびは『ひびクラシック』の名物企画「オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~」の取材をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
こちらが5つのルール・諸注意となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
①完全指名制です。
②次の指名は、ご自身の所属するオケと一つ前の人が所属するオケ以外の方でお願いします。
③できればご自身と違う楽器奏者の方をご指名ください。
④質問は全部で10個あります。
⑤あなたのファンが急増するかもしれませんので、どうぞお気を付けください。
ー 指名者の福川伸陽さんの印象やエピソードなどがあれば教えてください。
出会いは10年以上前、とある古楽のオーケストラに若い福川くんが来た時です。難しいナチュラルホルンを、音を外すことなく、完璧にかっこよく吹いていて。当時、彼の演奏を間近にしたのはその1回きりだったのですけど、その後あれよあれよとスーパースターになって…2、3年ぐらい前からバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)で一緒にやるようになり、この前、テレビの収録でヘンデルの「見よ、勇者は帰る」で彼のホルンソロがあったんですけど、これまた完璧に吹いていてびっくりしましたね。あれ、なんかすごい褒めちゃってるな(笑)。
ー 人生最高の演奏会(自身が演奏したものでも聴いたものでも)を教えてください。
思い出深いものでいうと、2013年2月のBCJ100回記念の定期演奏会。200曲近くあるバッハの教会カンタータを全部録音するという壮大なプロジェクトを1995年から始めて、その100回記念の定期で最終回を迎えた時です。23歳の全然吹けない頃に入って、最初は失敗したりもして、鈴木雅明さんや周りをひやひやさせていたなぁとか、色んなことを思い出しながら演奏しました。
その時はなんとか吹き終えたんですけど、最後のアンコールのコラール(dona nobis pacem)で対面のヴァイオリンの人を見たら、泣いてるのですよ。それを見た途端に自分も目頭が熱くなって、すーっと涙が垂れてきてしまって。このままいくと口に入って音が出なくなるってところまでは覚えてるんですけど、そのあとちゃんと吹けたのかどうか記憶がないんです。それぐらい、この演奏会は今までで一番感慨深かったですね。
ー 人生最高のCDを教えてください。
普段あんまり聴かないんですけど、最高のCDはあります。バロック・オーケストラのバッハのカンタータ82番「私は満ち足りています」。私の師匠・本間正史さんのそのまた師匠ブルース・ヘインズが演奏しています。バスはマックス・ファン・エグモントで、指揮はフランス・ブリュッヘン(18世紀オーケストラを立ち上げて、古楽、古典派を広めた元リコーダー吹き)。1977年の録音です。
これを中学生くらいの時に聴いて、オーボエのあまりに強烈なサウンドにのけぞりました。今まで聴いたこともない音色で、後にも先にもそんな衝撃はないですね。音をシェイプさせていく最後の仕上げや抜き方がオーボエという難しい楽器の次元ではない、まるで歌のようになめらかに演奏するのを聴いて、とんでもないなと感じました。オーボエという言い訳を一切していないんです。
82番はバス歌手にとってもオーボエ奏者にとっても大事で重要な、バッハのカンタータベスト10に入るくらいの曲です。このCDは今でも新鮮で、すごすぎるのでなかなか聴くのもためらうくらい。まあ、たまに聴きたくなっちゃうんですけどね。
ちなみに、BCJでも2006年にその曲をやって、レコードで歌っていたマックス・ファン・エグモントの弟子のペーター・コーイという素晴らしいバス歌手と一緒に演奏することができたんですよ。演奏家冥利に尽きるというか、とても嬉しかったですね。
ー あらゆる職業の中から音楽家として生きていることについて、どういった使命を感じていますか?
音楽って世界中にあるし、どの世代の人も身近に楽しめるじゃないですか。例えば、お祭りの音楽とか、口ずさむ音楽とか。でもクラシック音楽はそこからちょっと遠いですよね。今は音楽を手軽に聴ける時代ですが、コンサートホールに足を運ぶというのは、なかなか大変なこと。しかも、生の演奏を座って黙って聴くということは一番贅沢な時間の使い方。その中で我々は、お客様に対して最高のパフォーマンスをしなければいけないし、今日来て良かった!と思っていただくことが音楽家の使命であり、役目なのではないかなと思います。
あとは、バロックオーボエという古楽器をオーケストラで演奏しているので、楽器のことをもっと皆さんに知っていただきたい、広めたいという使命もあります。古楽の世界というのも未だあまり知られていないですからね。
古い楽器を使って古い音楽をやるというムーブメントは、20世紀半ばから始まったものです。最初の頃は、バッハの「マタイ受難曲」に出てくるオーボエダカッチャという楽器がどんなものなのか誰もわからないっていう状態でした。そこから色んな研究が始まり、日々新しいことが分かるという面白いジャンル。つまり、誰しも発見者にもなれるし、道を切り開いていくということができるんですよ。
先人たちは、全くノウハウがない中で古い楽器をなんとか音にしようという強いパッションのもと、音楽を創り上げてきました。今そういう演奏を聴くと、技術的には至らない部分もあるんですけど、強いメッセージ性を感じる。これこそが音楽の素晴らしさだと思っています。
最近では、世界中の多くの学校でバロックオーボエが習えるようになり、奏者の層が厚くなりました。先人たちのノウハウや昔より音程の良い楽器で、悪い言い方をするとパッションがなくても誰でも吹けるような状態になってしまったんですね。なのでこの時代に、どうして古楽器をやるのかということは大きな課題だと思っています。それについても考え、伝えていきたいですね。
ー どうしてバロックオーボエを選んだのですか?
中学2年生で本格的に始めることになるのですが、元々、父がバロック音楽が大好きな人で、家の中でレコードがよくかかっていたり、仲間と朝から晩まで音楽をやっていた中で育ったということもあり、小さい頃から慣れ親しんでいた好きな楽器ではあったんです。3歳の時には、バッハの「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」のレコードを毎晩のようにかけてくれと父にお願いしていたぐらい。
ピアノを小さい頃からやっていたんですが、小学校2年生でやめた。そのあと3年生の時に学校でトランペットを吹いてみたんですが、ものの数分で唇がかゆくなって、これは僕のやる楽器じゃないなって(笑)。さらにフルートを知り合いに借りて吹いたんですが、しばらく吹いたら、右ひじが疲れてきて、これも僕のやる楽器じゃないなと(笑)。
結局、好きだった楽器の中で最終的に残ったオーボエを中学1年生の時に始めようとしたら、父が僕に尋ねたんです。「ホリガーやヴィンシャーマンの現代のオーボエとバロックオーボエの音、どっちが良い?」って。僕は「間違いなくバロックオーボエだ」って即答。そこから、ある方に楽器を作ってもらって、1年後の中学2年生の七夕に楽器を受け取りに行きました。その足で師匠の本間正史先生のところに行って、教えてくださいってお願いしたんです。
ー どうやってオーケストラに入ったのですか?きっかけや時期は?
実は最初はプロになりたいとは思っていませんでした。父は高校の教員だったんですけど、その当時は30日くらい夏休みがありこんな良い仕事はないと思って、僕も漠然と教員になろうと思っていたんです。それで、武蔵野音楽大学の音楽教育学科に入りました。
ところが大学4年生の時に調べてみると採用枠が無かったんです。いくら頑張っても採用がないんじゃ意味がないからどうしようと思って、本間先生に人生相談しに行ったんですよ。そうしたら先生が、「俺、来年自分の師匠とロッテルダムで演奏するんだよ」って突然嬉しそうに話し出しちゃって、「あれ、僕の人生相談は?」ってもう放ったらかし(笑)。ただ幸運なことに、ちょうどそのタイミングでBCJから仕事をいただけるようになり、現在に至っています。
ー 楽器のこだわりを教えてください。
我々古楽器をやる人は、18世紀に作られた楽器を復元して演奏するんです。弦楽器の場合は古い楽器をそのまま使うのですが、管楽器はほとんど博物館に入っているので、自分で作るんですね。
昔はあるメーカーのものをずっと使っていたんですけど、2008年にBCJで「ブランデンブルク協奏曲」の録音が行われたときに、普段の415Hzではなく408Hzのピッチで演奏することになって。既存のバロックオーボエでは演奏できないということで、弟子と共同して楽器を作りました。そこから楽器の制作を始めたんです。
楽器を作るようになってからは、リハーサルしながら音程が合わなかったりするとその場でトーンホール(指穴)を削って調整しています。今メインで使っている楽器は、ライプツィヒのメーカーが作ったもののコピー。リスボンの博物館にあるオリジナル楽器を、特別な許可を取って2日半かけて0.01ミリ単位で計測しました。根気がいる作業ですし、本当に好きじゃないとできないですね。そもそもオーボエ奏者はリード(吹き口)を自作するので、その延長ではありますが。
作るメリットは、自分がこういう音、こういう音程で吹きたいっていうのが削りながら調整できること。ただ、デメリットは、人から音程が悪いよって言われたときに、楽器のせいにできないこと。お前が作ったんだろうってなるので(笑)。
リードがずらっと並んだケース。ひとつずつ手作りでこだわりが詰まっている。
ー コンサートが終わった後の打ち上げはあるのですか?
あります、大いにあります(笑)。音楽家は声楽、楽器問わずみんな食いしん坊ですし、飲むのが好きな人が多い。基本的には演奏会ごとに毎回打ち上げをやっていて、飲まないと帰れないって感じ。
海外のツアーがある場合、部屋飲みを夜遅くまでやってます。あと、旅先で美味しいお店を調べあげて、小グループで各々行くんです。そうすると後日、自慢大会が始まるんですよ。ここが良かったとか、SNSを使って写真をUPしながら。BCJはみんな和気あいあいとしている団体なので、そういうのがとても楽しいですね。
ー 音楽家以外でどんな職業に就いてみたいですか?
子供の頃からの夢で、寝台列車を牽引する電気機関車の運転手になってみたい。寝台列車は今もうほとんど無くて、貨物ならあるんですけど、そっちではないんです。だって寝台列車ってかっこいいじゃないですか(笑)。
ちなみに、群馬県横川の「碓氷峠鉄道文化むら」で、講習を受けたら400メートルの区間、機関車を運転できます。でも講習と運転含め2日間必要なので、なかなか時間が取れなくて…。今の最大の夢はそこで運転することですね。
ー では最後に、次の“オケトモ”をご指名いただけますか。
東京都交響楽団首席ファゴット奏者の岡本正之さんです。20年ほど前からフォルテピアノの小倉貴久子さんと室内楽や古典派のオケなどで一緒にやっています。
最近、手に入れた古いファゴットの象牙のベルが欠損していると相談されて、切り株があるので使ってくださいって言って家に呼んだら、外からぶおおおおって凄い音がして。驚いて見たら、岡本さんの白いポルシェだったんです。うちの近所で聞いたことのない爆音でした(笑)。颯爽と現れてかっこいいなあと思って。素敵な頼りになる先輩です。あれ、また褒めちゃった。なんだかなー(笑)。
三宮正満(さんのみや まさみつ)
武蔵野音楽大学卒業。97年、国際古楽コンクール<山梨>最高位、2000年、ブルージュ国際古楽コンクール第二位受賞。2008年より田村次男氏と共に歴史的オーボエを製作している。ソロCD「ヴィルトゥオーソ・オーボエ」「19世紀パリのオーボエ作品集」「ヴィダーケア・デュオソナタ集」をリリース。今まで100枚以上のCD録音に参加。NHK-FM「名曲リサイタル」NHK-BS「クラシック倶楽部」等に出演。現在「バッハ・コレギウム・ジャパン」首席オーボエ奏者。「ラ・フォンテーヌ」メンバー、「アンサンブル・ヴィンサント」主宰。東京藝術大学古楽科講師。

発売日 : | 2014/04/09 |
レーベル : | フォンテック |
フォーマット : | CD |

発売日 : | 1999/10/21 |
レーベル : | ソニーミュージック |
フォーマット : | CD |

発売日 : | 2019/01/11 |
レーベル : | King International |
フォーマット : | SACD |

公演日 : | 2019/4/19(金)・2019/4/21(日) |
場所 : | 東京オペラシティ コンサートホール |
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