オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

取材依頼書-東京フィルハーモニー交響楽団 黒木岩寿様

このたびは『ひびクラシック』の名物企画「オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~」の取材をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
こちらが5つのルール・諸注意となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

①完全指名制です。
②次の指名は、ご自身の所属するオケと一つ前の人が所属するオケ以外の方でお願いします。
③できればご自身と違う楽器奏者の方をご指名ください。
④質問は全部で10個あります。
⑤あなたのファンが急増するかもしれませんので、どうぞお気を付けください。

< 都響:岡本正之さんの回

ー 指名者の岡本正之さんの印象やエピソードなどがあれば教えてください。

「人間的にも音楽的にも、本当に天才的な感覚を持っている人」だなんて、そんなこと言われたら何もしゃべれなくなっちゃうよ(笑)。岡本くんは僕より3つ下になるのかな。大学時代、器楽科は人数が少ないし、その中でオーケストラの授業を合同でやったりするから、もちろんお互い顔は知っているし、挨拶もするんだけれど、彼も言っていたように当時はそこまで深い付き合いはなかったんだよね。

むしろプロになってから、音楽祭とかでちょくちょく会うようになった。2016年に、僕がプロデューサーを務めている、代々木上原のMUSICASA(ムジカーザ)で開催した初めての「モーツアルトの管楽セレナード第11番とドヴォルザークの管楽セレナード」という演奏会で、岡本くんにまず声を掛けて参加してもらったの。次の年、ベートーヴェンの七重奏曲とシューベルトの八重奏曲をやった時もそう。

彼は、何かを作り上げるということに対してすごく真面目な人。いいものを作りたいっていう情熱が誰よりもある。なにより、同じ低音楽器奏者から見ても抜群にうまいしね。そして人もいいし、奥さんもキレイだしさ(笑)。

 

ー 人生最高の演奏会(自身が演奏したものでも聴いたものでも)を教えてください。

高3年の8月に聴いた、コントラバスの永島義男先生のリサイタル。軽井沢のサマーミュージックスクールという講習会の時の演奏会なんだけど、それまでジャズミュージシャンになろうと思ってた僕が藝大を目指したきっかけになった。篠崎史子さんっていう素晴らしいハーピストとの演奏会で、見た目も音楽も最高すぎて一瞬でやられちゃって。それでその日演奏会が終わってから「僕、先生みたいになります!」って宣言したの。そしたら「じゃあ藝大においで」って言われて。でも実はそれまで藝大に音楽学部があるってことすら知らなかったんだけどね(笑)。この時の演奏会でがらりと人生が変わったなぁ。

あとは、ドイツに講習会を受けに行った時に聴いた文屋充徳先生のリサイタル。日本ではあまり知られていないような曲を沢山やっていて衝撃を受けたし、天地を揺るがすような音楽で、まいっちゃった。それからは長い休みになると必ずドイツに行って、10年くらい勉強させてもらってたよ。しかもその先生は人間として本当に面白い。自給自足みたいなことをやってたり、自然にとても詳しくて、この花の近くにはこの鳥がいるよって教えてもらったり、街で迷子になった時に教会の十字架を頼りにして歩いたり。なんでも知ってる、ドイツ版タモリさん(笑)。永島先生と文屋先生は僕のベースを作った、大好きな先生ですね。

そして僕は、オペラをやるために東京フィルに入ったくらい、とにかくオペラが大好き。2017年に新国立劇場でリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」を演奏した時が忘れられない。指揮のウルフ・シルマーさんが超イケててさ、かっこよかったんだよ。立ち振る舞いからアートで、指揮棒を持った瞬間にこの人は良いに違いないって確信した。そうしたらやっぱり、指揮も素晴らしくて、複雑なシュトラウスの音楽をシンプルにまとめ上げて。僕はそれがすごく好きで、演奏中泣いちゃった。今でも思い出して涙目になっちゃうくらい良かった。

「ばらの騎士」の最後の15分っていうのはコントラバス弾きにとってはもう最高で。ずっと最低音を弾いてるんだけど、それが本当に美味しいんだよね。リヒャルトってどんどん転調していくでしょ、それをベースで支えているのがたまらない。この和音最高だなっていうのが15分繋がるって相当なことだよ。もう、骨の髄までやられちゃう。

黒木岩寿

 

ー 人生最高のCDを教えてください。

CDは車で移動する時に聴くことが多いかな。遠くまで行く時に、前日から何を持って行こうかなって悩むのが楽しいの。その時のジャンルはクラシックではなくて、ジャズ。

一番好きなのは、ビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』。超イケてて、かっこよくて、おしゃれ。僕が買った盤には1曲目の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」がテイク3まで入っていて、同じ曲なのにテイクごとに演奏が全然違うのに驚いた。アドリブもアレンジもまるで違って和声まで変えちゃってる。本当にすごい。

あとは、ワールドミュージックも好きで、料理する時はシチリアの民族音楽ばっかりかけてます。ワールドミュージックの中で一番好きなのはメルセデス・ソーサっていう人で、アルゼンチンの美空ひばりみたいな人。声が本当に良い。その人のライブをベルリンで聴いたときにジーンと来ちゃって。すぐにアルバムを買って、そこからずっと好き。

 

ー あらゆる職業の中から音楽家として生きていることについて、どういった使命を感じていますか?

普段から常にそういうことを考えてるわけではないけど・・・音楽鑑賞教室とかで子どもの前で演奏する時には特に気合いが入るね。大人がマジでやるっていうのを見せるのが大切だと思ってるから。喜怒哀楽を出して演奏することで何か伝わるんじゃないかなって。音楽を聴くっていうのはある種独特な時間だと思うから、普段の生活では得られないようなことを感じてほしい。それでまた演奏を聴きたいなって思ってもらえたらとっても幸せ。いつかの自分がそうだったように、演奏を聴いて感動したり人生が変わるような子が出てきてほしいですね。

黒木岩寿

 

ー 楽器を始めたきっかけは?

最初は小3の時に兄のドラムを触ったのが音楽との接点。中学生になった兄がバンドを始めてドラムを買ってきたのを勝手に叩いてたんだけど、みるみるうちに兄より上手くなっちゃた(笑)。そうしたら僕をドラムから遠ざけるためにエレキベースを渡してきて、それから弾くようになったんです。ビートルズばっかりコピーして、それがとにかく楽しくて。自然とエレキベースでミュージシャンになりたいと思ったんだけど、中3の時にジャコ・パストリアスと出会って運命が変わった。チャーリー・パーカーのアドリブをエレキベースで弾いてるのを聴いて、自分もジャズに傾倒するようになり、その流れでベースを演奏するようになって。

そこからはベースでジャズをやる!って思ってたんだけど、先述の通り、高3の時に永島先生に出会い憧れて、クラシックの世界に来ました。

 

ー 演奏家として好きな方はどなたですか?理由は?

ジョルディ・サバールっていうヴィオローネ(ヴィオラ・ダ・ガンバ)を弾く古楽器の人。その方の演奏が本当に大好きで!音がとにかく太くて深くて、人が喋ってるみたいに聴こえる。1993年公開のフランス映画『めぐり逢う朝』での音楽の深さに感銘を受けてすっかりファンになっちゃった。たくさんあるCDも本当にたくさん聴きました。それからバロック音楽が大好きになって、「ラ・ストラヴァガンツァ東京」というバロックのバンドを立ち上げたくらい。

あとは、ライナー・ツェペリッツっていうカラヤン時代のベルリンフィルの第1ソロコントラバス奏者。これこそコントラバス!っていう良い音をしてる。サイトウ・キネン・オーケストラで何十年も一緒に演奏させていただいたことがバス弾きとしてとても良い経験になりましたね。いのししと闘って骨折しちゃうようなパワフルでお茶目な人で(笑)、人柄も音楽も本当に大好き。

他にはね、ゲーリー・カーも好き。コントラバスのソリストとして有名な人で、自分の世界を持ってる人で本当に全然ぶれない。上手いし素晴らしいんだけど、唯一無二で自分には真似できないし、彼がやるからこそ良いんだと思う。そういうぶれない、人としての生き方を尊敬してる。なんかさ、僕、好きって思う人いっぱいいるんだよね。みんなすごいって思っちゃう。みんな好き!(笑)

黒木岩寿

 

ー 好きなホールは?

代々木上原のMUSICASA (ムジカーザ)です。ここで演奏会をプロデュースしてるってことはさておき、お客さんとの近さが良くて気に入ってる。普段はオーケストラで1,000人とかを相手に演奏してるけど、これからはそれにプラスして、地域の人たちの中にどんどん入っていって、つながっていくようなホールがクラシック音楽界の未来の鍵を握っているんじゃないかな。僕は、コンサートをやる時に一方通行に演奏するだけじゃなくて、色々としゃべってお客さんに伝えているのね。こういう小さいホールだと息遣いも聴こえて、そういうこともできて、本当に良いなと思う。

あとは、横須賀芸術劇場も好き。ピットから見た景色がヨーロッパみたいなんだよな。あとは日生劇場もガウディの作品みたいでいいね。僕はそういう味のあるホールが好き。

 

ー 好きな小説は?

僕はどんなジャンルでも、とにかく本を読むのが好きなんです。小説なら、谷崎潤一郎の『細雪』。ある大阪の普通の話なんだけど、文章が本当に美しい。あとは川端康成の『古都』も大好きで、これも日本語の美しさを感じる一冊。どちらも何回も何回も読んでる。今ある言葉は昔こういう風に表現されてたんだっていうのを知ることができるし、言葉そのものを立体的に、3Dに感じられて、想像力を掻き立てられる。

こうやって文章から想像力を持つことは音楽と同じだと思うんです。ひとつの楽譜をどういう風に弾くかっていうのはこちらに任されていて、それは言うならばファンタジー。音楽との共通性を小説を読むようになってすごく感じる。

他に、小説ではないんだけど最近よく読んでいるのは、『川瀬敏郎 一日一花』。天才と呼ばれる川瀬敏郎さんが生けた花が365日分載ってる美しい本。この方の生けた花が僕には“どストライク”。写真の横にちょこっとついた文章もとっても良くて。朝起きたら、今日はこの花だなって確認するのが日課になってます。

黒木岩寿

 

ー 他に最近興味のあることは?

僕は長野で「文化人類学講座」と題して、世界の歴史や文化を紹介して音楽をもっと深く知ってもらう企画をしていて、ジャンル問わず、色んなことに興味があるんです。例えば絵画だと、ここ20年くらい日本画が好き。加山又造の『千羽鶴』『雪月花』とかは特にぐっとくる。もう、やられちゃうよ。あとは片岡球子の『幻想』。この色使い、本当にかっこいいなって思う。みなさんにも是非観てほしい!

他には、東山魁夷の『年暮る』っていう絵が好き。前にミラクルが起こってさ。ある京都のホテルで東山の景色がとても綺麗だったから写真に収めたら、偶然その構図が絵と同じでびっくり! もう魁夷とマブダチじゃんって(笑)。しかも、そんなこと思ってたら昨年、東山魁夷美術館からお話があって、そこでリサイタルをやったの。もう嬉しくて感動しちゃったよ。

あとはね、和歌が好きなんだ。昔は万葉集が好きだったんだけど、最近は新古今和歌集。自然を描いているものが多くて、ヴィヴァルディの『四季』のソネットみたいに想像せずにはいられなくなる。藤原定家が大好きで、新古今和歌集の『見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮』なんてとっても良い。「なかりけり」っていうのは否定の文学。ここで花と紅葉が出てくることによって下の句「浦の苫屋の秋の夕暮」が対照的に、奥の深い寂しさを感じることができるよね。

こういう歌を分かりやすく『定家百首』っていう本にした人がいて。前衛短歌の歌人で評論家でもある塚本邦雄さんなんだけど、この人の文章が本当に深くてやばい。素晴らしくて、これだけでごはん何杯もいける。読むたびに、どんどん定家のことが好きになるんだよね。

 

ー では最後に、次の“オケトモ”をご指名いただけますか。

NHK交響楽団首席ティンパニ奏者の久保昌一くん。彼とは20年前くらいに室内オーケストラの団体を作ってそれからずっと一緒に演奏していて、同い年で昔から仲が良いんです。

コントラバスは、タイミングや音質感、音圧感がティンパニの協力なくては成り立たない。音楽をお互いに共有することがとても大切だから、演奏してる時はティンパニをちらっと見るんだけど、その時、久保くんも僕のことずっと見てるんだよね(笑)。

針の穴を通すように難しいピチカートを合わせるタイミングでも、久保くんとだと何も話さなくてもぴったり合っちゃう。きっと、音のないところが合ってるんだと思う。音の出る前の繊細な時間。僕がそう言ってたって彼に伝えといて(笑)。

 

黒木岩寿

深紅のコートがおしゃれな黒木さん。「バーンスタインが赤い裏地のコートを着ていたから、僕は表で(笑)。」

 

黒木岩寿(くろき いわひさ)

東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。1987年安宅賞受賞。1988 年福島賞受賞。八ヶ岳高原音楽祭、霧島国際音楽祭、ゆふいん音楽祭に招待される。また、ポーランド・ヴィエニアフスキ音楽祭や、バルセロナのカタロニア音楽祭にも出演する。
小林研一郎指揮読売日本交響楽団、ドイツの重鎮ハンス・マルティン・シュナイト指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団、沼尻竜典指揮トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズと協奏曲で共演。
2001年から2008年まで神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席奏者をつとめ、2009年からは東京フィルハーモニー交響楽団に移籍し首席奏者に就任。水戸室内管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラ、東京ゾリステン、ジャパン・チェンバー・オーケストラ、トウキョ ウ・モーツァルトプレーヤーズ、バロック・バンドのパヴィメント・ジャパンのメンバーを経て、現在ラ・ストラヴァガンツァ東京主宰の他に東京グランド・ソロイスツのメンバー。
兵庫県芸術文化センター管弦楽団(PAC)にも出演している。
室内楽では、マルタ・アルゲリッチ、ポール・メイエ、モディリアーニ・カルテット、アルデオ・カルテット、ジョセフ・リン等と共演。
映画「おくりびと」の音楽にも参加。コマーシャル、ドラマ等、ジャンルを超えたパフォーマンスで活動中。また自らの企画「文化人類学講座」は好評を博している。
1990 年から 2004 年まで東京藝術大学管弦楽研究部非常勤講師。現在は、桐朋学園芸術短期大学、洗足学園音楽大学、昭和音楽大学講師として後進の指導にもあたる。2016年よりムジカーザのプロデユーサー。2019年より長野市芸術館のシーズン·プログラム·プロデューサーに就任。(2019年5月時点)

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東京フィルハーモニー交響楽団 演奏会情報
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