オーケストラとともに~日本フィル×株式会社興建社 水島隆明(代表取締役社長)

音楽を愛し会場に足を運ぶ聴衆ばかりではなく、多くの企業や個人に支えられているのがオーケストラ。その支援者をフィーチャーし、お話を伺うのがこのコーナー。

第4回は、日本フィルハーモニー交響楽団を特別会員として支援している株式会社興建社の水島隆明社長。
自らの手で音楽祭を創り上げ、オーケストラとともに地域に根ざした活動を行う。そこから見える、これからの変化していく時代とともにあるべきクラシックの姿を探る。

 

「私たちが地域を活性化させるために、日本フィルを応援することは必要不可欠なことなんです」

 

— 会社としてはどのようなことを行っているのでしょうか?

公共事業や福祉関係から民間の様々な建築工事を手掛けている建設会社です。杉並区は住宅都市なので、やはりマンションや戸建て住宅の施工が多いのですが、ほかにも商業系のビル、シェアハウス、教会、寺など。また、最近は耐震補強やリノベーションなども行っています。

具体的な仕事内容は、お客様からの注文を受けて、出来上がったデザインのもと、私たちの自主設計プロセスに乗せてそれぞれの専門工事会社に依頼するということです。実際にトンカチやノコギリを振るうような社員がいるわけではなく、私たちの役割は言うならば映画のプロデューサー。スタッフ、演者など専門性のある人員を集めるように、壁紙を貼る人、電線を設置する人など30にも分かれる分野の会社をまとめてマネジメントするのが我々の仕事です。

— 最近の建設業界は人手不足だということをよく耳にします。

1946年に私の祖父がこの会社を創業し、父の後に私もここを継いだ中で、職人の高齢化や若い人がなかなか入ってこないという現状を強く感じています。建設業界というのはとてもローカルで、地域の仕事はその地域の職人がやることが多い。そうした仕事というのは、私たちのマネジメントも含めて、ロボットやAIに取って代わられるものではないんです。すべてが熟練した人の手によって作られている。そういう意味でも、ひとつの建物と長く付き合っていく中、人と人の繋がりでお客様から信用を得ることがこれからの建設業の勝負どころだと思いますね。この関係を繋げていけるよう、若い人の離職率の低下のために新卒教育や若手教育などにも力を入れています。

水島隆明

— 日本フィルハーモニー交響楽団との関りも地域との繋がりから生まれたのでしょうか?

そうですね。1994年に日本フィルさんが杉並区と友好提携を結び、2000年からは私たちが日本フィルさんの特別会員に加入したことがきっかけです。今でこそ日本フィルさんは大手企業をはじめ多くの支援を受けていますが、当時は「杉並区にオーケストラが来る!」「でもどうやって応援したら良いんだろう・・・」と地域のみんなも期待と不安が入り交じった、完全な手探り状態でした。それでも、とにかくオーケストラと一緒になって地域を盛り上げていくということをイメージしながら、日本フィルさんが杉並区に来ることをすごく心待ちにしていたんです。

— 実際にはどのような関りを持っているのでしょうか?

もちろん私自身、日本フィルさんの演奏会に足を運ぶこともありますが、「荻窪音楽祭」の存在が欠かせないですね。荻窪の街づくりをしようと2001年から始まったイベントで、杉並公会堂のようなホールだけでなく名曲喫茶のような小さな箱でもクラシックを楽しめるというのがコンセプトです。日本フィルさんには、「0歳からのコンサート」、南相馬と杉並の生徒たちを繋ぐ「みらい夢コンサート」、才能ある子どもと日本フィルのメンバーとの共演「フレッシュジュニアコンサート」に出演いただき、また音楽を通した地域・教育活動を展開する専門セクション「音楽の森」にも「荻窪音楽祭」実行委員の一員として参加していただいています。

元々「荻窪音楽祭」は、私の父が会長を務めていた「21世紀の荻窪を考える会」という地域会合から立ち上がった企画。地域を活性化するイベントを模索する中で、高円寺には阿波おどり、西荻窪には骨董、阿佐ヶ谷にはジャズがある、それなら荻窪はクラシックをやろう!と。その当時クラシックに詳しい人はほとんどいなかったんですけどね(笑)。でも、杉並区には日本フィルがあるということで。「荻窪音楽祭」は今年で32回目の開催。私を含む実行委員20人ほどの地域の方々がボランティアスタッフとして協力し合ってます。

— すごい情熱ですね!では企画やオファーもみなさんでやるんですか?

とにかく全てのことを自分たちでやっています。私たちの企業理念は「活力ある地域社会づくり」。地域の方々が住み心地のよさを感じたり、あるいは別の地域にいる方々が住んでみたいなと思ったり、そういうことが不動産の価値にも繋がるので、地域の建設会社がその地域の発展のために働くというのは当たり前のことだと思っています。少なくとも「荻窪音楽祭」や日本フィルさんへの応援は私にとって必要不可欠なものなんです。

— 杉並区だけではなくて、南相馬市の協力もあるとのことですが、そこにはどのような繋がりがあるんですか?

2011年の震災後に、南相馬市の学校を「荻窪音楽祭」に招聘したんです。震災の2年前から杉並区と南相馬市が災害の相互援助協定を結んでいたこともあり、当時日本フィルさんが被災地の支援に行っていました。そこで出会った中学生たちがとても頑張っているのでぜひ杉並区の子どもたちにも聴いてもらいたいと、日本フィルさんの方からお申し出があって招いたのがはじまり。単体のステージもやりつつ、杉並区の中学生と日本フィルさんとの合同のステージでも演奏しています。

中でも、南相馬市立原町第一中学校の演奏が本当に感動的なんです。ひたむきに努力している姿が伝わってきて、なおかつレベルも高いので、杉並区の小中学生への刺激にもなっている。なにより彼らは、みんなと一緒に演奏できることを心から楽しんでいるんですよ。

— そのように普段だと関わることのないような繋がりを持つことができて、大きな喜びがありそうですね。

そうなんです、運営に関わるうちにどんどんハマってしまいました(笑)。とても楽しいんですよ。音楽祭を通じて地域の方と知り合って人脈が増えていくので、何か困りごとが出てきたときにお互い助け合うことができたり、地域のために一生懸命やっている姿を評価していただいたり、とてもやりがいがありますね。

水島隆明

— 「荻窪音楽祭」を通して日本フィルさんと関係を築いてきた中でこれからも素晴らしい関係を続けていただきたいです。

「おらが町のオーケストラ」になるためにはどうしたらいいのかなって、団員でもないのにいつも考えています(笑)。日本フィルさんには、単に定期演奏会をこなすんじゃなくて、小学校でワークショップを行なったり、地域に根付いた活動をやろうというしっかりとした理念がある。これは見習うべき素晴らしい姿勢ですよね。しかも、年間でものすごい数の演奏会やワークショップを行なっている。そして勢いもあるし、ガッツもある。応援しなきゃ、支えなきゃという気持ちにさせてくれるんです。

— 最後に、経営者の視点から、オーケストラや今後のクラシック業界に対してアドバイスなどがあればお聞かせください。

実際に「荻窪音楽祭」を運営していて思うのは、集客がとても難しいということ。ライヴの良さというのは絶対的にあると思うんですけど、それをどうやったら多くの人に観てもらえるか・・・。ただ大人しく席に座って聴くだけじゃない、自分もコンサートの一員になれるような体験が必要ですよね。

海外に比べても日本の演奏会は敷居が高いって思われがちですけど、このあいだ足を運んだ若手演奏家集団Ensemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)の演奏会では、「その場でSNSでつぶやいてください」「スマホ等での写真撮影もOKです」とアナウンスされて、とても新しい体験をしました。普通の演奏会だったら当然写真はNGですもんね。でも、こういう時代に即した新しいスタイルの演奏会がどんどん出てくれば、新規の客層を集めるための一手にもなるわけで。

あとは自分もアマチュア演奏家のひとりとして思うのは、演奏する人たちがなかなか演奏会に足を運ばないということ。音大生、アマチュア問わず、自分の練習に忙しくてなかなか行かないんですよね。

特に若い子たちの音楽離れは深刻だと思います。近年、子どもの習い事の選択肢から音楽が少なくなっていたり、中高の吹奏楽部で楽器をやっていた人たちが卒業後は完全に音楽を辞めてしまったり・・・ とても寂しいですよね。プロにならなくても愛好家でいてくれたらなと。そのためにも、みんながもっと気軽にクラシックを楽しめるような新しい提案や仕組みづくりを今後行っていかなければならないと感じています。

 

★こぼれ話★

— ご自身の音楽との関りは?

クラシック、ジャズ両方でトロンボーンを演奏しています。中高で吹奏楽、大学ではオーケストラ、その後もOBオケをやっていて、ずぶずぶです(笑)。大学生の頃はN響の裏方のバイトもしていたんです。

— 普段どんな音楽を聴きますか?

ジャズだと、レトロなものが好きで、サミー・ネスティコ、グレン・ミラーとかアメリカのビッグバンド系が好きです。クラシックは、季節や年でムーブメントが来るんですよね。冬になるとマーラーの交響曲4番の第3楽章が聴きたくなったり。ショスタコーヴィチを集中して聴く時期があったり、ワーグナーばっかり聴いたり。最近は若手アーティストの発掘も楽しみにしていますね。音楽は私の生活に完全に根付いています。

 

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