オーケストラとともに~東京フィル×東急グループ代表 野本弘文(東京急行電鉄株式会社 代表取締役会長)<2>

オーケストラとともに~東京フィル×東急グループ代表 東京急行電鉄株式会社 野本弘文(代表取締役会長)

音楽を愛し会場に足を運ぶ聴衆ばかりではなく、多くの企業や個人に支えられているのがオーケストラ。その支援者をフィーチャーし、お話を伺うのがこのコーナー。

第5回は、東京フィルハーモニー交響楽団を賛助会員として支援する東急グループ 東京急行電鉄株式会社の野本弘文会長。
東急グループが運営するBunkamuraオーチャードホールでフランチャイズ契約を結ぶ東京フィルと共に、人々の豊かな未来を描く。街を創り、文化を生み出す意義。そして、その思いを語る全2回。

 

「街は、文化・音楽を必要としている。今までの型にはまらない新しい音楽の提供の仕方を考えていくべきなんです」

 

— 今年30周年を迎えたBunkamuraについてお伺いしたいと思います。オープンは1989年。どのようにしてこの施設ができたのですか?

「街には文化が必要だ」と常におっしゃっていた当時の東急グループ会長・五島昇さんの強い意志によるものです。80年代、東急のこれからの事業戦略として掲げられていたのが、カード、ケーブルテレビ、カルチャーの「3C戦略」。そこで私たちは、「クレジット・イチマルキュウ(現:東急カード)」、「東急有線テレビ(現:イッツ・コミュニケーションズ)」を作った。最後に文化芸術を表現できる舞台を作るということで、当時東急百貨店の横の駐車場だったところにBunkamuraを建てたんです。

当然、文化というのは「事業」にするのは難しい。それ自体で利益を生み出すのはなかなか大変なのですが、五島さんは「文化事業は企業の使命でもある」という強い信念を持っていました。東急が50周年を迎えた1972年のスローガンは「豊かさを追求する」。その後、ある程度豊かさを実感できるようになったときに、今度は「豊かさを深める」という流れになり、音楽や演劇など楽しめる場所も必要だということでBunkamuraが作られました。

五島さんが亡くなった後は、その遺志を継いで「五島記念文化財団」を作り、オペラや美術の分野を支援してきました。2019年4月1日からは、「五島記念文化財団」「とうきゅう環境財団」「とうきゅう留学生奨学財団」をひとつに統合し、「東急財団」として活動を開始しています。

— Bunkamuraオーチャードホールが開館当初からフランチャイズ契約を結んでいる東京フィルハーモニー交響楽団との関りを教えてください。

当時社長だった清水仁を理事として迎えていただいて、それ以来長いお付き合いをさせていただいています。欧米では劇場やコンサートホールに専属の楽団が付くということはごく一般的で、そのように関係を持つことでホールの魅力を最大限発揮できます。オーチャードホールもそんなコンサートホールになってほしいと願ってのことでした。

オーケストラとともに~東京フィル×東急グループ代表 東京急行電鉄株式会社 野本弘文(代表取締役会長)

— 日頃から東京フィルの演奏会には足を運ばれているのでしょうか?

ジルベスターコンサートとニューイヤーコンサートは毎年行っています。リピーターになってしまうぐらい、とても魅力的なコンサート。チケットが争奪戦になっているというのも頷けます。

— 野本会長は東京フィルの理事もされていますが、期待を込めて「もっとこうしたらいいのにな」とお感じになられるところはありますか?

より多くのお客様を呼び込むという点では、これまで通りの音楽の提供の仕方ではやはり物足りないのかなと。例えば、プロジェクションマッピングをオーケストラの演奏に合わせて使うといった音楽と映像のコラボレーションであったり。目と耳で同時に刺激を受けながら味わうことで、その音楽がより奥深くイマジネイティヴなものとして聴こえるのではないでしょうか。

以前、ロッシーニ歌劇場管弦楽団が来日してモーツァルトの「レクイエム」を演奏したときに、「怒りの日」で後方のプロジェクターに激しく燃える炎の映像が映し出されたのです。それだけで、受けるイメージや感動の大きさが全く異なることに気づかされました。もちろん音楽だけでも、十分にそういったことをイメージできる人はいると思いますが、多くの人は音楽の”ストーリー性”を感じとって享受するところまでにはなかなか行き着けない。

そういう意味でも、クラシックの裾野をより広げるためには、映像、映画、演劇、舞踏・・・ あらゆるアートやエンターテインメントとの組み合わせによって、音楽に共感させるような仕組みを作っていくことも必要なのではないかと思います。

— 決まった型にがっちりとはまったコンサートが多い中で、それ以外の型を求めているお客様が少なくないのかもしれませんね。

それこそ、今年の1~2月にオーチャードホールで上演されたK-BALLET COMPANY『ベートーヴェン 第九』を見た時は感動しましたね。熊川哲也さんがバレエと「第九」を組み合わせた公演。「こういう聴かせ方もあるんだな」と本当に驚きました。

ジルベスターコンサートでは、これまでにそういったコラボレーションを積極的にやってきましたよね。昔は熊川哲也さんと、最近ではシルヴィ・ギエムさん(パリのバレエダンサー)と「ボレロ」をやったり。その2015年に行なわれた「東急ジルベスターコンサート2015-2016」、音楽はもちろん、ギエムさんと東京バレエ団の踊りも素晴らしかった。初めてジルベスターコンサートをご覧になった方も「とても感動した」ということを口々におっしゃっていましたから。つまり、そういった方々に喜んでもらって、初めて音楽の価値がより高いものになるのではないでしょうか。

— 野本会長ご自身は昔からクラシック音楽に親しまれているのですか?

Bunkamuraの担当をするようになってからよく聴くようになりました。聴いていると色々なアイデアが自然と浮かんでくるんです。

野本弘文

— クラシックで特に好きな作曲家や思い出深い曲などはありますか?

小学校3年の時には、学芸会でフランソワ・ジョゼフ・ゴセックの「ガヴォット」をハーモニカで演奏したことがあるのですが、生まれて初めて買ったクラシックのレコードがラヴェルの「ボレロ」。中学校3年の時、ラジオか何かで聴いて直感的に良いなと思って買いました。この2曲は今も好きでよく聴いています。

— コンサートではどのような聴き方をしていらっしゃいますか?

コンサート中は”無”になって聴くことに集中するようにしています。やはり生で聴くのは良いなと思います。当然ですが、家でCDを聴くのとは違う。音の厚みや臨場感はもちろん、劇場であれば人の息づかいや温もり、そうした機微に直に触れることができますよね。

— 生でしか味わえない臨場感や感動であったり、そこでしか体験できないバリューはありますよね。では逆に、“街づくりのプロ”という視点から、ふだんあまりコンサートホールに足を運ばないような方たちを集客するようなアイデアなどはありますか?

先ほどの繰り返しにもなりますが、やはりもっと裾野を広げるための仕組みづくりが必要だと思います。初めてのクラシックコンサート、なかなかその1歩を踏み出せない方も多いと思いますが、1回来れば好きになる、そうした体験型の「コト消費」を軸にした仕組み化。なおかつ、アクティヴで口コミ力のある若い学生さんなどをターゲットにした新しい集客モデルが確立されれば、クラシック音楽業界の活性化や盛り上がりにもつながる。

例えば、劇団四季や宝塚歌劇団は、学割制度などを導入する中でリピーターをどんどん増やしていますよね。もちろん学生さんに限らず、しょっちゅう足を運べなくても、何かきっかけがあれば一度は観てみたいという方はたくさんいらっしゃると思いますから、クラシックのコンサートでも同様の仕組みづくりができるといいですよね。

極端に言うと、チケットが無料であれば、どれだけ忙しくてもみなさんいらっしゃるんですよ。さすがに無料にすることはできなくても、まずは足を運びやすくするきっかけですよね。地方であれば、その自治体が芸術・文化支援の一環として助成することで、地域の住民はいつでも割安でコンサートを観ることができたり。

— 最近は、ワンコイン~1,000円程度でぶらっと足を運べるミニコンサートなども多くなってきていますからね。そこにプラスアルファの施策要素が加われば、確かにおのずとリピーターも増えてくる気がします。

今年の4月に、ヴァイオリニストの川井郁子さんと観光列車で旅と音楽を楽しむ「THE ROYAL EXPRESS 川井郁子との煌めく音旅」という1泊2日のツアーを催行したんです。

伊豆急行と東急が運行する伊豆観光列車「THE ROYAL EXPRESS」に乗って伊豆急下田に向かい、車内では川井郁子さんの演奏とトーク、さらに下田の東急ホテルで1泊、ディナーの後の庭園コンサート、列車乗車中にはツーショット撮影会なども行ないました。これがご参加いただいたみなさまから大好評だったんですよ。今後は、同様のツアーを下田市民文化会館で行なうプランなども話に上がっているほど。それだけ下田市の自治体の方々も「文化度が高まる」「地域の活性化につながる」と前向きになってくれているんです。

— 様々なコンテンツとの組み合わせによって、いくらでもその付加価値を高めていくことができると。

これからは今までの延長線上でやるのではなくて、新たなアイデアや取り組みが必要になってくるのではないでしょうか。「また行きたい」とリピーターになっていただけるようなクラシックコンサートの仕組みを作るということは、私たちが行なっている都市開発や街づくりと同じようなことなのかもしれませんね。

いずれにしても、常に少しずつ成長して進化を遂げる、そんな街づくりのビジョンの中心には、人々の豊かさの象徴としての文化・芸術・音楽はやはり欠かせない。今後も私たちは、みなさまの生活に密着した街づくりや文化事業の展開を行なっていきたいと思っています。

 

《前回を読む》

 

★こぼれ話★

— もしオーケストラに入ったらやってみたい楽器はありますか?

弟がドラムを叩いていたり、ギターを弾いていましたけど、私は楽器にはまったく自信がなくて(笑)。父もヴァイオリンを弾いていました。実家の向いに映画館があったのですが、そこで父が若い頃に無声映画の伴奏でヴァイオリンを弾くアルバイトをしていたというのを母から聞いたことがあります。

弟はギター、歌、ドラム、何をやってもセンスがあってうまかった。現在は太鼓のお師匠さんをやっていて、大会のシニア部門で準優勝もしています。でも私はからきしだめ・・・(笑)。だからオーケストラはやっぱりすごいなぁと思いますよね。ヴァイオリンにしてもよくあれだけ手が動くなと。あくまで憧れだけで、自分がやるなんてとても考えられないですね(笑)。

 

東急グループ(※外部サイトへリンクします)
https://tokyugroup.jp/index.html

東京フィルハーモニー交響楽団(※外部サイトへリンクします)
https://www.tpo.or.jp/

東京フィルハーモニー交響楽団へのご支援について(※外部サイトへリンクします)
https://www.tpo.or.jp/support/index.php

第2回 渋谷の午後のコンサート 歌うヴァイオリン
第2回 渋谷の午後のコンサート 歌うヴァイオリン
公演日 : 2019/8/9(金) 14:00開演
出演者 : 指揮とお話:ダン・エッティンガー/ ヴァイオリン:大谷康子
場所 : Bunkamura オーチャードホール
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東京フィルハーモニー交響楽団 2019シーズンオーチャード定期演奏会
東京フィルハーモニー交響楽団 2019シーズンオーチャード定期演奏会
公演日 : 2019/9/22(日) 15:00開演
2019/10/20(日) 15:00開演
2019/11/23(土・祝) 15:00開演
出演者 : 【9月】指揮:アンドレア・バッティストーニ/ヴァイオリン:木嶋真優/女声合唱:新国立劇場合唱団
【10月】指揮:ミハイル・プレトニョフ/テノール:イルカー・アルカユーリック/男声合唱:新国立劇場合唱団
【11月】指揮:ケンショウ・ワタナベ/ピアノ:舘野泉
場所 : Bunkamura オーチャードホール
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