2019年08月28日
神谷未穂《仙台フィルハーモニー管弦楽団》オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~

取材依頼書-仙台フィルハーモニー管弦楽団 神谷未穂様
このたびは『ひびクラシック』の名物企画「オーケストラリレーインタビュー ~みんなで広げようオケトモの輪!~」の取材をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。
こちらが5つのルール・諸注意となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
①完全指名制です。
②次の指名は、ご自身の所属するオケと一つ前の人が所属するオケ以外の方でお願いします。
③できればご自身と違う楽器奏者の方をご指名ください。
④質問は全部で10個あります。
⑤あなたのファンが急増するかもしれませんので、どうぞお気を付けください。
ー 指名者の久保昌一さんの印象やエピソードなどがあれば教えてください。
もともとは、私が大学生の時から久保さんの奥さまと共演させていただいて、リハーサルでご自宅に伺った時にみんなでお食事したり、私がパリに住んでいた時もご家族で遊びにいらしてくれたり、家族ぐるみのお付き合いをさせていただいています。本当に良くしてくださっていて、大好きな大好きな先輩です。
私は久保さんの演奏を聴いて、ティンパニが好きになったんです。久保さんって、緊張する場面でも乱れることなく安定しているんです。クラシック音楽業界であんなに動じない人は久保さんだけじゃないかなって(笑)。アルゲリッチ音楽祭で、久保さんが急にアルゲリッチと本番で共演することになって、自分だったら絶対に緊張する舞台なんですが、久保さんはサラッと演奏しちゃう…本当に“タダモノ”じゃない(笑)。普通の人ができないことも何食わぬ顔でこなせちゃう人。急に「明日ドイツに行ってくる」とか平気で言うから「えーっ!?」って、奥さまと私で驚かされたりもします(笑)。自由人ですよね。
ー 人生最高の演奏会(自身が演奏したものでも聴いたものでも)を教えてください。
仙台フィルにコンサートマスターとして着任した翌年、東日本大震災がありました。その日は仙台市青年文化センター・コンサートホール(現:日立システムズホール仙台)でリハーサルだったのですが、ホール全体が揺れてとんでもない音がしたり、譜面台が倒れたりと、本当に怖かった。今まで普通に使えていたホールが使えなくなってしまうというのは初めての体験でした。その後、個人としても仙台フィルの一員としても、様々な場所で演奏をさせていただく機会があったのですが、ホールの修復作業を終えて7月にはじめて本拠地のホールで弾いた時のコンサートは、今でも忘れられないですね。
戻ってきた時に客席でみんなで垂れ幕を持って待っていてくれたんですよ。常任指揮者のパスカル・ヴェロさんの日本語のスピーチからはじまって、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第2楽章『家路』のメロディーが流れてきた時には、みんなもう泣いていて…演奏が終わった時に客席を見たら「おかえりなさい」の垂れ幕があったんです。あの光景は忘れられないですね。人生の一番の思い出かな。
2011/7/2(土)の仙台市青年文化センターコンサートホール復活演奏会の様子。チケットは完売し、多くの人が仙台フィルの演奏を待ちわびていた。
ー 人生最高のCDを教えてください。
自分が演奏する曲は、どこか真似になっちゃうところがあるので聴かないかな…。家で聴くとしたら、すごく好きなのはステファン・グラッペリですね。インタビューで「ヴァイオリニストで誰が好きですか?」と質問されたら、いつもグラッペリと答えています。圧倒的なセンスの良さと、ジャズやロックなど様々なジャンルの人たちと共演したりして、いろんなことに挑戦しているのがカッコいい。
あとは、アルゼンチンタンゴとかも好きなんです。ハワイアンとアルゼンチンタンゴが大好きな父親の影響ですね。小さい時はふざけて踊ったりしていましたよ(笑)。
ー あらゆる職業の中から音楽家として生きていることについて、どういった使命を感じていますか?
地域創造でのアウトリーチ活動やソニー音楽財団の「Concert for KIDS」といった、子どもたちに音楽を聴かせる活動を、自分自身の子どもが生まれる前から行なっていました。音楽は人の想像力を沸き立たせるし、はるか昔の大作曲家から受け継いだ財産を身近に感じることもできるし、凄いことだと思うんですよね。それを子どもたちに知って欲しいなと思うので、これからも活動を続けていきたいです。
それと、仙台で復興支援活動を頑張りたいという気持ちを強く持っています。東日本大震災の5日後くらいに沖縄で演奏させていただく機会があって、自分たち自身も音楽を弾いて聴くことによって鬱々としたものから解放されていったので、何か音楽でできるのではないかと3月の時点で思いはじめていました。そこで、ピアニストの中川賢一さんとチェリストの主人と私のピアノトリオで何かしたいと思い、知り合いのホール関係者に連絡を取って待機していたんです。3月中はもちろん難しかったのですが、4月に入ったくらいに「今だったら、もしかして音楽が何かみんなのためになるかもしれない」と名取市のホールの方が判断してくださり、演奏する機会をいただくことができました。演奏がはじまったときは唾も飲み込めないくらいピーンと空気が張り詰めていたのですが、演奏が進むにつれてその雰囲気が変わっていって、音楽の力というものが絶対にあるんだなと感じましたね。
東日本大震災の直前に「阪神淡路大震災十六周年祈念・みやこフィルハーモニック チャリティーコンサート」にコンサートマスターとして参加していたんですよ。阪神淡路大震災の時に赤ちゃんだった子が20歳になるまで活動を続けることを目指して、きちんとそれを達成しているんです。その方々のように、私も復興支援活動を続けていきたいと思っています。
ー ヴァイオリンを始めたきっかけや時期は?
父方の祖父が音楽好きで、オーケストラの定期会員だったり、レコード収集家でした。孫たちがみんなピアノをやっていて、お正月になると祖父の家でピアノの発表会をしたりしていました。母方も三味線や長唄をやっていたので、音楽が好きな家族でしたね。9歳年上の姉が先にピアノとヴァイオリンを始めていたこともあって、母のお腹の中にいた頃から私もクラシック音楽を聴いていました。
私は物心ついた時からヴァイオリンをやりたかったんですけど、親から「6歳の6月6日まで待て」とお預け状態にされていたんですよ。たぶん邦楽の稽古始めの習わしだと思うんですけど、その時期から始めると上達すると言われていて。ですから、先にピアノを習い始めて、その後ヴァイオリンという順番でした。でも、桐朋学園大学に入ると、みんな2歳、3歳からやり始めているっていうのを聞いて「え?」となって(笑)。
ー 他の楽器でやってみたい楽器はありますか?
絶対ティンパニ!大好き!(笑)。以前、打楽器をやる機会があって、バロック音楽でタンバリンはやったことがあります。実はこの秋にもやるんですけど、久保さんに習いに行きたいと思っています(笑)。リズム楽器が好きなので邦楽だったら鼓かな。逆にやりたくない楽器はないですね、根っからの音楽好きなんだと思います。
ー 音楽家以外でどんな職業に就いてみたいですか?
うーん、想像つかないですね。練習が嫌いな時期はありましたけど、辞めたいって思ったことはなくて。あっ、でも久保さんじゃないですけど、浅野温子さんのTVドラマ(「ぼくの姉キはパイロット!」)の影響もあってか、パイロットになりたいと思ったことはありました。あまり女性が就かない職業に興味があったんだと思います。コンサートマスターも最近は女性が増えてきましたが、私が就任した時はあまりいなかったですね。
ー 演奏会の衣装・ドレスにこだわりはありますか?
出産後に全然ドレスが着れなくなったので、従姉妹のヴァイオリニスト礒絵里子にほぼ全てあげました(笑)。オーケストラの一員として演奏する時は黒が多いですが、仙台フィルでは夏場の定期演奏会以外は白を着たりもするんですよ。室内楽だと青系とか赤系とかいろんなカラードレスがあって、最近はよく花柄も着たりしていますが、子どものためのコンサートでは、分かりやすいようにワントーンのものにしていますね。数人のアンサンブルで奏者の衣装が綺麗に調和されていると、まさにアンサンブル能力があるなって思いますね。
ー 何か趣味はありますか?
映画鑑賞が趣味で、特に増村保造監督の作品が好きです。パリに住んでいた時に、シネマテーク・フランセーズで日本の映画監督のフェスティヴァルがあり、小津安二郎さんや増村保造さんの作品を何十本も観ました。
実は家にテレビがないんですが、代わりに大きいスクリーンをパリから持って帰ってきて設置しているので、そのスクリーンに投映して家族で観ています。DVDがもう数えられないくらいあって、収納スペースが全然無くなってしまって…実家にもありますよ(笑)。
ー では最後に、次の“オケトモ”をご指名いただけますか。
千葉交響楽団のフルート奏者 吉岡次郎さんです。吉岡さんとの出会いは、10年くらい前にご一緒した地域創造のアウトリーチ活動でした。今は私が特任コンサートマスターを務める千葉交響楽団の同僚でもあります。吉岡さんは隠れた名曲を取り入れるのが上手で、フルートでこういう作品もあるんだと教えてもらったり、弦楽器と木管楽器という違う楽器同士なので、共演すると新しい発見があったり、学ぶところが多いですね。さすがフルーティストって感じで、声の出し方とか雰囲気がとっても上品な感じなんです。SNSによく猫の写真をアップして猫自慢していて、私も子ども自慢で対抗しています(笑)。
撮影協力/発酵するカフェ 麹中
神谷未穂(かみや みほ)
桐朋女子高等学校を経て、桐朋学園大学を首席で卒業。 文化庁芸術家在外派遣研修員としてハノーファー音楽大学に留学、首席卒業。さらにパリ国立高等音楽院にてジャン・ジャック・カントロフ氏に師事し、最高課程を修了。
北九州国際音楽祭TOTOクフモプライズ室内楽(デュオ)第1位、ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリンコンクールにてパガニーニ賞、オーストリア室内楽音楽祭賞を受賞。
プラハ室内管、ヘルシンキフィル、仙台フィル、新日本フィル、東京フィル、東響、東京シティ・フィル、アンサンブル金沢、神奈川フィル、九州交響楽団等、国内外のオーケストラにソリストとして招かれ共演を重ねている。
また、NHK-TV、テレビ朝日「題名のない音楽会」などの音楽番組に出演する。室内楽でオーギュスタン・デュメイ、ジェラール・コセ氏と共演、フランスと日本を中心に演奏活動を行い、フランスのシャンブル・フィルの主要メンバーとしても活躍。ソリスト、室内楽奏者として活発な演奏活動を行っている。
これまでに江藤俊哉、江藤アンジェラ、徳永二男、クリスティアン・アルテンブルガー、ジル・コリアー、ジャン・ジャック・カントロフの各氏に師事。2004年~06年まで、財団法人・地域創造の公共ホール音楽活性化事業登録アーティストをつとめ、現在は同支援事業協力アーティストとして、地域に密着した音楽活動を展開し高く評価されている。
CDはパリ在住のピアニスト、望月優芽子とのデュオアルバム「フランスのブーケ」(NAT-11501)を2012年にリリース。従姉の礒絵里子とのヴァイオリン・デュオ・ユニット“デュオ・プリマ”の活動も大きな注目を集め、CD「カスタ・ディーヴァ/デュオ・プリマ」、「トラヴィアータ・ファンタジー/デュオ・プリマ」、2011年にはデュオ・プリマデビュー10周年を迎え、3枚目のCDアルバム「Duoism~デュオイズム/デュオ・プリマ」(MECO-1007)をリリース、常設のヴァイオリン・デュオユニットとして、更なる活動をめざしている。NHK・TV(仙台放送局)“ひるはぴ”にレギュラー出演。全日本学生音楽コンクール審査員。平成23年度宮城県芸術選奨受賞。現在、仙台フィルコンサートマスター、横浜シンフォニエッタコンサートマスター、千葉交響楽団特任コンサートマスター、宮城学院女子大学特命教授。
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