ユーザーレビュー
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弦楽四重奏曲集 第1集~第2番、第5番、第8番 アルカディア四重奏団
ヴァインベルグの弦楽四重奏曲は初めて聴いたが、3曲とも極めて優れた作品であり、個人の好みでは交響曲や室内交響曲よりいい。ショスタコーヴィチに通じるシニカルな音楽だが、ヴァインベルグ特有の叙情性がどの曲にもあり、大変美しいのだ。アルカディアの演奏も抜群だ。前回バルトークが出た際シャンドスはこのカルテットの録音を継続してほしいと書いたが、どうやらその方向のようでなにより。 -
ヴァイオリン・ソナタ全集 江藤俊哉、シドニー・フォスター(1962年東京ライヴ)(3CD)
まさかこのような録音が残されていようとは!という驚きを持って聴きました。録音状態自体は1962年のライブ収録という割には比較的聴き易く、会場ノイズも少ない目でした。演奏は実演ですので音程の揺れやミスタッチもあります。クロイツェルなどは崩壊寸前でハラハラする部分もあります。逆に言うと、安全運転に走らず攻めた演奏を繰り広げているということなのだと思いました。誰もが納得するような模範的な解釈ですが第7番や第10番の節回しには独特な所もあります。おそらく入手するには最初で最後のリリースではないかと思いますので、この機会にご検討されてはいかがでしょうか。 -
『バッハ~鍵盤楽器のための作品集』 ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)
久しぶりに聞きごたえのある盤にあたった。ただ、このオムニバス形式の選曲が日本の聞き手に合うのか?と言われると残念ながら難しいのではないかと覆う。この盤の中には、彼が想像するバッハの世界観が示されており、音の作りから新しい創造性があるように思われる。これは、クラシックではない環境音楽だと言われるかもしれない。ここに新しいバッハ観があるのは間違いなく、一聴してほしいピアニストだと思う。 -
交響曲第5番、『フランチェスカ・ダ・リミニ』 パーヴォ・ヤルヴィ&チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
パーヴォが「満を持して」開始したチャイコフスキー・ツィクルスを担うオーケストラがN響でないのは残念だが、結果を聴いてみると、やはりこれが正解か。近年のN響のヴィルトゥオジティは目覚ましいが、特にこのようなロマン派のレパートリーでは輝かしい音響が音楽に結びつかないという歯がゆい思いをすることが少なくない。これに比べれば、トーンハレ管弦楽団の響きはずっと地味、いわば質実剛健だが、パーヴォの目指すチャイコフスキーがハリウッド映画風の絢爛豪華なスペクタクルでないことは明らかなので、やはりオーケストラの選択は正しかったと言える。ところで、このディスクのライナーノートが最近ネルソンスがあちこちで喋っている内容と全く同じことを書いているのには、ちょっと驚いた。チャイコフスキーの第5はベートーヴェンの第5のような「苦悩を通して歓喜へ」というストーリーを持つ交響曲ではなく、「運命に対する全き屈伏」こそこの曲の主張だという話だ。パーヴォの演奏もこのような解釈に従ったかのように聴くことができる。もちろんロマン派の音楽らしいアゴーギグ、テンポの変化は的確に表現されているし、第2楽章中間部の速いテンポ(楽譜通りだけど)、終楽章コーダ(モデラート・アッサイの部分)のクライマックスでのタメの作り方など師匠(といってもタングルウッドで短期間、教えてもらっただけだが)バーンスタインを思い出させるところもある。けれども、もちろんパーヴォの演奏はバーンスタインのような情緒纏綿なものではなく、ドイツ流交響曲のような堅牢な造形を崩さない。第3楽章でのホルンのゲシュトップトの強調などと併せて、いかにも21世紀のチャイコフスキーだと思う。 -
交響曲第29番、第31番、第32番、第35番、第36番、第38番、第39番、第40番、第41番、レクィエム、他 チャールズ・マッケラス&スコットランド室内管弦楽団(5CD)
良い演奏は冒頭を聞けばわかる。29番第一楽章を聞いたら「マッケラスってこんなに凄かったのか」と本当に瞠目した。マッケラスと言えば、今でも”ウィーンフィルとのヤナーチェクだよね”と私も思っていたし、ブレンデルがマッケラスをパートナーに選び、再録音したモーツァルトの協奏曲がリリースされた時に購入したが、「なんでマッケラスだったんだろう」と言うことが私には当時全くわからなかった。ところがマッケラスは1992年から始まったECOとの関係の中で、早くからこのモダンオケにピリオド奏法とナチュラルホルン、トランペット、ティンパニを導入、新しい表現を目指していた(これはライナーに書いてあったから事実だろう)。その終着点とも言えるのが2007年と9年に録音されたこのディスクである(レクイエムは2002年)。特に最晩年の29、31、32番とハフナーとリンツは物凄い名演。29番は優しい響きの中にも立体的な響きと、細かいニュアンスの両立が奇跡に近い。これを聞いてしまうと、勢いが良い29番の冒頭とかもう聞きたくなくなる。また、ハフナーはピリオド奏法でありながら推進力と暖かみが両立し、また各声部の音量調整が見事。第一楽章の終結部とかたまらない。特に第二楽章がここまで心に染みる演奏は他では聞けない。三楽章はリズム処理が見事だし、終楽章もしっかり鳴らしてくれる。リンツに至ってはこの美点にスケール感が加わるのだから鬼に金棒とはこう言うことを言うのだろう。従来のピリオド演奏では曲の構成感とインテンポのためにモーツァルトの持つ慈愛が失われていたんだなぁと改めて気付くことになった。38-41も悪かろうはずがない。プラハは演奏の難しい曲だが、対位法の良さを引き出しながら、細かいニュアンスに心がこもる。それがジュビターになるともう一つギアを上げて曲にふさわしくボリュームアップする。やはりこの曲は別格なんだなと思わせる。このディスクの素晴らしさについてはいくらでも書けるが、従来のSACDから通常CDになったがボックス化して求めやすくなったし、これを機に多くの方にマッケラスの至芸を聞いて欲しいと願わずにいられない。なお、ブックレットに記載されたSCOのドナルド・マクドナルド総裁(なんちゅうお名前じゃー)の「Some reflections and reminiscences」と言う寄稿は、2020年の8月に書かれたもので、没後10年経ってもなお、マッケラスへの敬愛をはじめ、ブレンデルやラトルとのエピソードやこのディスクに対する誇りが記載されており、心に残る。 -
歌曲集[希望Op.26-1/ソルヴェーグの子守歌/他] アルネセン/エリクセン
グリーグは北欧のシューベルト、シューマン、フォーレと言ってよい、大曲よりは抒情的な小品に本領を発揮する人だと思います。奥さんのニーナが優れた歌手だったこともあり歌曲にも名作も多く残していますが、よく知られているのはソルヴェイグの歌や君を愛すなどのごく一部ではないでしょうか。かく言う私もそうでした。 このCD、代表作である山の娘こそ入っていませんが、有名曲を多く含んだ選曲も良く、アルネセンの清澄な歌唱も素晴らしい、伴奏のエリクセンがこれまた繊細なピアノでソルヴェイグの子守歌冒頭の弱音などにはうっとりさせられます。グリーグの歌曲を知るのにこんな格好のアイテムがあるのに知られていないとすれば勿体ないと思い書き込みました。グリーグが好きな人ならば必ず新たな魅力を発見できるものと信じます。 それにしても、NAXOSはさして有名とは言えないアーティストを起用してよくこれだけ良いものを作り出すものだと感心します。